俺にヒットした。色々な見方のできる作品だと思うが、基本はきっちりラブコメなのは衆目の一致するところだろう。正直最初は「ラブコメとして読むと浅いか?」と思ったりもしたが、けっこうな速度でロマンティックあげられたのでラブコメだしラブロマンス。
まず目を引くのが、タバコというラブコメとは少し距離のありそうなものが舞台装置になっていることだろう。まぁ、ラブコメなんてのはだいたいがちょっとピュア寄りの領域だし、ラブコメヒロインてのはアイドルみたいなもんだからな。アイドルはタバコもウンコもしない。みんな知ってるね。実際タバコを吸うラブコメヒロインってほとんど思い浮かばない。
そんなわけで本作はタバコを吸ってそうではない表ヒロインと吸ってるパンクな裏ヒロインがいるが、どちらも同一人物の覆面ヒロインである。おじさんのアイドルは当然表の煌びやかなヒロインだが、裏のヒロインと仲を深めていくことになる。まぁ魔法少女みたいなもんだな。ステッキの代わりにシガーもってるだけ同じ同じ。王子様があまりにもくたびれているのでさすがにシンデレラとは言い難い。
以下欧米では流通させてもらえなさそうな1巻感想。日本って自由だよね。
オススメ文
本作は「オススメされた作品」からです。今回は投稿から3か月後なので比較的早い(こんなこと言ってるやつに投稿してくれる皆様には感謝の言葉もありません。。。)。
くたびれたおっさん主人公がタバコを通じて出会った少し不思議な女の子と駄弁るお話。 今や何処でも肩身が狭い喫煙者。でもそれで繋がる変わった縁もあるのだろうか。 基本やっている事はタイトルそのまま。 派手な展開は余りないけれどどこかほっこり出来るラブコメです。
FAIさん
普段、社会人系のラブコメは組織を思い出してしまうためあまり読まないので(高津カリノ系は違う銀河の話だから普通に読む)、オススメされなければ手に取らなかったように思います。ありがとうございました。
タバコという舞台装置
本作を読んでまず思うのは、「タバコ吸ってる」だろうやっぱり。昨今の喫煙者の立場は悪くなる一方で、特に欧米では排斥が激しいらしく、ビートルズの有名なアビーロードからタバコを抹消するポスターが出たというのがもう20年前の話だ。
ビートルズ『Abbey Road』のジャケットが修正される | BARKS
あれからタバコの地位は悪くなることはあっても良くなったことはない。俺も当世の社会的風潮に若い頃は影響されていた。タバコにはネガティブな気持ちが非常に強かった。
まぁ理由はある。働き初めてから工場にいたとき、職場の人間関係を維持するため吸わないのにタバコ部屋にいって休まなければならなかった時の思い出が、俺のタバコ嫌いの素地を醸成したと思う。体調悪い時にいくと本当に吐き気がした。これはほんの10年前。あと25年くらい前になるかな、路上にタバコの吸い殻がめちゃくちゃあったのもイメージ悪いね(これはいつのまにかなくなったので、令和キッズたちは知らないだろう)。
統計的に見ても、たばこ税による収入よりも健康被害の医療費にかかる負担のほうが大きいという試算もあり、保険料の高さに対する怒りと受動喫煙で健康被害を受けていたことの相乗効果で、俺のタバコに対する憎悪は強かったな。
今はもう嫌悪感ないよ。むしろ喫煙者はタバコ税という増税戦線の最前線で政府と戦う戦士たちくらいの気持ち。俺も呑兵衛の酒税戦士なので共に戦おう(いまさら)。心臓を捧げよ。酒もたばこもやらんという人も、次は砂糖税がくるかもしれんぜ。タバコ・酒税は砂糖税の防波堤だと思ってくれ。
「砂糖税」は日本でも導入が検討!? 本当に肥満対策になる?:医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ:日経Gooday(グッデイ)
タバコを通して見える現実の生々しさと生きづらさ
タバコと税金のつまらない話をしてしまったが、タバコという舞台装置では、どうしてもそういう色々な生々しさを感じずにはいられない。実際、深くは語られないものの、本作のヒロイン・山田さんも、また21世紀で一番くたびれた主人公っぽい佐々木さんも、そういう現実の生々しさの中に生きていることが、本作の世界観のベースにある。
表のままでは受け入れられない二人が、スーパーの裏の片隅で、タバコ1本を境にほんの少しだけ自分を垣間見せて、今日という疲れた日にささやかな彩りをくわえている。
その生々しさに疲れてしまうので、普段はあまり社会人系のラブコメは読まないんだけど、これはちゃんとラブコメしていたのでスイスイ読めたね。まぁ組織外の話がメインってのもあるだろうな。オフィスラブだとつらかったかも。
歳の差かぽーの納得感
ラブコメ的には歳の差カップルのジャンルでもある。
山田が年上、というか佐々木に惹かれるのはわかる。山田の性癖はかなり難物だ。山田は佐々木の自分のレジを狙って並ぶ露骨さと、それでいながら実はきちんと線引きをしている「お上品」さのギャップに惹かれたところがあるだろうが、このバランスを持った男はけっこうレア度が高い。
というのも、まず本当に上品な男は露骨に同じ女の子のレジに並んだりはしないからね。まぁだから「お上品」なんだけれど。その皮肉に気づかない、あるいは気づいているけれどさほど気にした風でもない佐々木は、気質として本来かなり気易く無頓着なほうだったのではなかろうか。佐々木の「お上品」さは、その生来の気質は無論あるが、それ以上に、現代社会という戦線の中ですり減らされていく過程で身につけた、彼なりの洗練であろう。
男……人間は少しずつ成長していくものだ。恐らく山田の繊細さでは、多くの同年代男子のがさつさ、無神経さ、洗練されてなさに耐えられないだろう。しかし上品な男であったならば山田との出会いはないし、そもそもイマドキの本当に「上品」な男は喫煙する女など目に入らない。山田は上品な男とは付き合えないし、ついでに言うと本当に「上品」だったら鼻持ちならないとか思って敬遠しそうだ。かといって、がさつで無頓着な男の無神経さにも耐えられないだろう。つまり、やっかいな性癖だ。
ということで、歳の差カップルものの根幹である女→男のラインは、個人的にはかなり納得感があった。
一方で、歳の差カップルのもう一つの障壁、男→女のラインはもう少しわかりやすい。佐々木にとってアイドルは山田であり、その山田をアイドル視しているという共通認識が、山田の裏垢であるところの田山に対する気安さを作っている。
「山田が目当て」の裏を返すと「田山は目当てではない」とも取れるので、田山に対する親しさを恋愛的なものと邪推されないはず、そういう安心感はあるだろう。また、佐々木自身にとっても、自分の目当ては山田(だから田山と会うのはそういうことではないのでOK)というのは、良い言い訳になっているに違いない。
佐々木にとって、色恋目当てで若い女子に近寄っていると思われることは、絶対に避けなければいけないことだ。まぁ実際、彼はそれを強く自覚して線を引いている。
しばらくはこのままか?
ということで、佐々木と山田の組み合わせは非常に納得感のある面白いCPだが、同時に難しさもある。山田=田山のネタバレを佐々木が知ったら、関係が間違いなく変わってしまうということだ。すべてを知っている山田は、それを半分望んでいるし、半分望んでいない。少なくとも今はまだ変えたくない気持ちが強いだろう。
佐々木にしても、今そこに気づいてしまうとどうしていいかわからなくなるだろう。山田=田山に気づけないのは、彼の無自覚な防衛反応かもしれな……いやそれは多分鈍いだけだわ。でも佐々木の洗練さは「社会的なふるまい」という側面が大きいので、田山個人との個人的な関係が、社会という重しを超えるほどになれば、前進できるだろう。
逆に言うと、ネタバレはそれくらい近くなってからが望ましい、となる。
この関係性の変化にラブコメの妙味があるわけで、店長などは店の裏で静かに繰り広げられていたロマンスを格好の肴にしているし、読者の俺も面白がって酒の肴にしているわけだ。タバコ税は払っていないが酒税は払っている。疲れた。
コメント
コメント一覧 (2件)
田山=山田の素顔バレをどう着地させるのか確かに気になります。
佐々木が鈍すぎるのは会う時間が仕事で精神的に疲れ切っていて思考力がなくなっているせいでしょうか。
喫煙者という肩身の狭い存在同士で相手が自己肯定感の低い佐々木だからこそ、山田では見せれない素の田山を本音で肯定してくれているのが嬉しいのでしょう。
最近喫煙者は本当に肩身が狭いですからね。それだけに喫煙者同士は連帯感もありそうだなと、喫煙室はこっちですと熱く案内している人を見て思ったこともあります。
山田はかなりめんどくさい距離感を求めているので、佐々木がピタッとハマったのはいいと思います。
結果的に歳の差ですが、佐々木視点でも普通そういう関係になりえない相手だから、佐々木のほうも自然体で素直に接せられる気もします。