作・佐々木ミノル。
タイトルからして絶対楽しくないだろうなと思って、ちょっと敬遠していた。特にこういう題材はまず間違いなく作者の実体験に基づいたものだから、なんか生々しい話盛ってきそうだなぁと。
実際痛ましい話が多かったが、タイトルに反して綺羅びやかな表紙でわかるように、一応ラブコメでもある。兄妹関係をベースにしつつ、別にちゃんと真っ当なヒロインをあてがう。ガチで本当に妹のために頑張るお兄ちゃんもので兄妹ものになるものはない気がする。
なんにせよこの手の話でラブコメは珍しい。以下1巻感想。
心が痛い
絶対楽しくないだろうなーと思いながら読み始めたら、案の定やりきれないというか、心が痛くなる話多め。家庭の事情で、自分の意志に反して中卒の身分で家族・妹の真彩を養うため、中卒で働き出した主人公・真実(まこと)は、立派に妹を育て働きながらも、内には鬱屈としたコンプレックスを抱え続けている。自分を含む周囲をすべて憎み、クズだクズだと喚く様は本当に痛々しくて心が痛む。
第三者的に見れば、18で働き家族を養う男がクズなわけはないし、また彼が思うほどに周囲も彼を否定しちゃいない(=クズではない)。クズだと思うからクズなのであるが、こればかりは言っても仕方のないことで、本人の気の持ちようというか。
真彩の"ため"と言うのは紛れもない事実だろうが、真彩の"せい"とぽろっと出た言葉もまた、偽らざる本音なのだろう。ただそれをよくないことだとして、必死に内に押し込めているのが、余計にコンプレックスを拗らせている感じ。特に真彩は、漫画的デフォルメがあるとはいえちょっと軽度の知能障害なんじゃないかというくらい色々心配になる子なので、二次元美少女補正がかかってるからまだよいものの、その労苦はたいへんなものであろう。でも真彩が悪いことはしていないし、むしろ真彩の存在が真実の支えになっている面もあるだろう。
学歴コンプレックス
真実がコンプレックスを爆発させることになったきっかけは、いけ好かない新卒の大卒くんである。自分は世間に何恥じることなくうまくやっていると思いこんでいた、思い込もうとしてきた矢先の、学歴社会の現実が、まだまだ若い真実の心をかき乱す。
このコンプレックスは根の深い、一種の社会問題ですらあるところで、たとえ歳食っていても中々拭いきれるものでもないようで、中卒までいかずとも、高卒と大卒でよく生じるところだ。特に大卒が入る頃には、高卒だと4年くらい働いており、その時点でその仕事の能力だけを取ってみれば、当然長く勤めている方がうえである。しかし、システムから大卒側が上司、リーダーになるということはよくあるし、また最終的には出世する。
ただ、そんな中で現場においては大卒はけっこう肩身の狭い思いをしたり、学歴的に逆差別を受けることもままある。また、メーカーの大きな工場であったりすると、そこに親会社・子会社・派遣など、会社同士の関係も生じる。また、大卒同士でも大学の序列という問題があり、さらに新卒一括採用のシステムと景気の波の関係で、同じ会社でも年度によって新卒の学歴に格差があったりなどする。そして、職場の人間関係はカオスの様相を呈する。
うーん。こんなことラブコメ読んでいる間は忘れたいもんだが、しかしなんでも、現実逃避の面だけではなく、現実を直視するからこそ得られる感動、萌えもあるわけで、とりあえず先を読むかという感じ。
急転直下のラブコメ
社会的な側面が大いにあるものの、細かいところは大味で、またしっかり美少女が配置され、しかもあっという間に主人公の告白までいく急転直下。告白といっても勢いにのってみたいなところがあり、かつその後定番のすれ違いな展開になるものの、これはそのうち予定調和的にくっつくのではないかと思わされる。このラブコメ分がいかにもなラブコメで、ボーイ・ミーツ・パンチラから始まるボーイ・ミーツ・ガール。中卒労働者という生々しさと合わせると、なんだか妙な味わいがある。
相手役はお嬢様で、主人公は鼻からバカにしているような節があるが(出会い頭のパンチラで痴漢扱いされてイラッときたのもあろうし、またお付きの男が、悪気はないのだろうけれどお嬢様に他者を寄せ付けないので)、お嬢様の身の上でありながら通信制の高校に通うという時点でかなりの訳ありであろうことは察せられる。
そこまで思いいたらないいっぱいいっぱいぶりが、真実の未熟さなのだろうが、真実はまだ18歳であり、18歳にしては大きすぎる責任と問題を抱えていることも事実。時間をかけて、関係を育んでいくものと思う。
色々と救えない話があるものの、愛を持って描かれているのがわかるので、最後はきっとハッピーエンドだろうという安心感はある。ただそこに至るまでに色々胸糞な話もあるのだろうなーとも思う。そして真実はなんだかんだいってきっと大きく成長できるだろうと思うのだが、アホの子すぎる妹・真彩の将来が一番心配である。
コメント