『となりの柏木さん』1-2巻感想:作者とファンと彼・彼女

霜月絹鯊, となりの柏木さん 1, 2010

大昔から積んでいたんだが、何故か今さら読んだ。2020年にはAfter Daysなるものまであるらしい。

本作自体は2010年出版ということもあって懐かしい雰囲気。一週間フレンズ。にヲタ彼女を混ぜたような。あと宮原るりとか思い出す感じ。女性作家の男向けラブコメって一番ラブコメらしいラブコメになる気がする。ん?女性作家だよね多分🤔

一昔前のオタクがライトでも迫害されていた頃の世界観なので、今どきの10代だと理解し難いかもしれない。ただファン心理や作者・作品とファン・愛好家の距離感なんかは今も同じ、むしろSNS全盛でオタク趣味も一般的になった今のほうがデリケートかもしれないね。

以下1-2巻感想。

ラブコメらしいラブコメ

読んでいて一週間フレンズ。を思い出した。

あと隠れヲタ話(あえてヲタと書こうじゃないか)がストーリーの軸ということもあり、ヲタ彼女を思い出したりもした(漫画版は2014年だけど原作はいつなんだろう)。

まぁでも雰囲気は一週間フレンズ。が近いか。男女ツーマンセルが2組、女を追っかける男。

美少女を追いかける男の構図って、一番ラブコメらしいラブコメだなと思う。男女の性差が如実に現れているからだろうか。男女の性の役割をまっとうしているというか。で、この構図は全般的に女性作家のほうがうまく描けるような気もしていて、宮原るりなんかそうだよな、と思う。言わずもがな「僕らはみんな河合荘」なんかそうだね。

この手の作品は、主人公である男性視点なのだけれど、物語としてはむしろ追いかけられる女性の心理の変化に重きが置かれている。主人公の一番の役割はヒロインに働きかけて変化させ、その秘められた可愛さを引き出すことだったりする。この男が一生懸命ヒロインを可愛くしようと健気に尽くす感じは、やっぱり女性作家のほうが描きやすいのかなぁと思ったりなんだり。

ただ重要なのは、そうしてヒロインを可愛く仕立て上げていく過程で、必然的に二人の関係も深まっていくことだろう。これがとてもラブコメらしく感じさせるのだろうな。

作者とファンの距離感

本作も構成としてはそんな感じなのだが、二人を結ぶきっかけが「オタク趣味」であることが特徴だろうか。ヒロインの柏木さんがオタク趣味をひた隠しにしているのは、それなりにオタクなるものが人口に膾炙された時代を生きる若者にとっては共感し難いかもしれないのだが、00年代くらいまではまだちょっと言いづらい趣味であったと思う。ちょうど境目の時代かなぁ。

まぁそんな時代なので、特に同志が見つかった時の喜びはひとしおだ。おまけに主人公はヒロインの描く絵のファンで初期からずっと追いかけているということで、ラブコメとしての舞台装置は整っている。この「作家とファン」「作品と読者」という関係をSNSで繋いでいるのが現代やね。

とはいえ、関係の本質は今も昔も変わるところはないらしい。インディーズが有名になってモヤモヤする感覚などは、いわゆる「ファン心理」としてはよく理解できる話だ。「ファン」は「作品」を通じて「作者」を愛するので、同じ「ファン」が増えるのは嬉しい一方、自分の込める愛が全体の中で薄れてしまうように感じられて寂しくなるのもむべなるかな。

と言いつつ、自分はあまりファンにはならないタイプだったりする。作者と作品を切り離して考えるので、昔は音楽もよく聞いていたが、バンドメンバーがどうのなんて話にはほとんど関心がなかった。クリエイター自身に興味を持たないので、作者が人格者だろうが人間失格だろうが知ったことではなく、極端な話、いじめっ子でうんこ食わせるやつでもそんなに気にしない。

こんな感じだから、麻薬をやっていたからって昔出したアルバムまで販売禁止することないやん、って思うわけだけれど、まぁみんながみんなそうドライではなく、後追い自殺まで発生するくらい、現実的にクリエイターのもつ影響力というのは一般的には大きいので、ある程度の自主規制は仕方ないのかもしれない。

そんな濃い「作者とファン」の関係を思春期の男女に被せるので、本作の人間関係は濃密。作者とファンの関係が、彼と彼女の関係になっていく過程で、なかなかのラブコメパワーが出力されることが予想される。2巻の終わりでいきなり喧嘩となったが、これは作者とファンの関係に、彼と彼女の二人の関係が重なりつつあることの現れだろう(これは男女間じゃなくても容易に起こりうる)。

まぁとりあえず、積んでいた分(5巻まである。なぜか4巻を2回ポチっていてワロタ)についてはまず読んでいこうかな、と思っている。

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