『大正処女御伽話』5巻(最終巻)感想:光あれ!

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桐丘さな, 大正処女御伽話 5, 2017

完結巻。毎回毎回不穏に終わるからもうほんとどうなるんだと思っていたのだけれど、まぁ表紙のとおりだね。よかった、本当によかった……。

ご都合主義といえばそれまでかもしれないけれど、表紙のようになってくれないと読者の心的ダメージがはかりしれないからね。夕月が可愛い漫画だったが、珠彦の変化が感慨深い漫画でもあり、まぁ有りていに言って完全無欠のラブコメでございました。ありがとうございました。と言いつつ、珠代姉さんの闇をきっちり描いているあたりさすがというかなんというか

……もう2年前だね。いまさら感想などつらつらと。

目次

珠彦が感慨深い

珠彦漫画だった。いや、もちろん夕月が可愛いんだけれど、夕月は最初から最後まで、徹頭徹尾可愛かったので。それに引き換え、珠彦の変化たるや。ねぇ。愛がここまで人を変えた……というよりは、前を向かせたんだろうな。恐らく、珠彦の性根自体はもとからそんなに変わっていないのではなかろうか。だからこそ、夕月とここまでの関係を築くことができたのだろうし。真っ暗闇を、月の明かりが、前に進む道を照らしてくれた。そういう話だったね。

本巻で夕月を探しに行った珠彦は、珠央との対峙、夕月の説得、父親との対決、そして夕月のご両親との対面、と矢継ぎ早に難関を越えていく。その強さはひとえに夕月への愛情のため。そして、家系的なものもあるだろうな。

鬼と呼ばれても人は人。力の使い方で、その時々に、善にもなれば悪にもなろうさ。その積み重ねを、人生と呼ぶこともあろう。親父さんも、人との出会い次第では違う人生があったかもしれない。逆に言うと、夕月がいなければ珠彦もまた生涯人を憎み世を儚む、後ろ向きの厭世家でい続けたことだろう。

珠代というアンチテーゼ

基本的に大団円で実に嬉しい結末だったのだけれど、一点気にかかるのは、姉の珠代の闇が深い。結果論かもしれないが、珠彦たちは珠代の掌の上で踊っていた、とも取れる。少なくとも、彼女はそう考えていそうだ。まー現実はそう単純なものではなく、またそんなことはこの物語の本質からはどうでもよいことかもしれない……のであるが、なんとなくモヤモヤした何かが心に残っている。

なんとなく、珠代の存在が本作のアンチテーゼ的であるように思えるからだろうか。夕月との田舎での生活を御伽話と断じられた珠彦は、それ自体を否定はせず、しかし夕月への想い、これは真実であると信じ、その信念が珠彦を突き動かした。そしてその珠彦の情念を、珠代は見抜いていたわけだ。

それは、珠代自身が許されない恋情に似た感情を、父親に抱いていたからだろう。そしてそれは、珠彦が夕月に感じていただけの強い愛と、恐らく強さ自体は同じくらいのもの。だからこそ、誰もが呆気にとられる珠彦の行動が、珠代にとっては想定内のものだった。

本質的に近いこの姉弟の、あまりに違う情愛の形はいったいなんなのか。珠彦は愛を向けられていて、それに応えようとしていたが、珠代は愛を向けさせようとしていた。それは大きな違いだろうな。珠彦たちの世界が広がっていくのと反比例して、珠代たちの世界は、狭く、深く、闇に覆われていく

幸福に包まれる世界は、御伽話が現に顕在化したようだが、その世界から離れたところで、今なお彼らは闇の中を歩んでいる。珠彦は、彼らの元気を祈ることしかできない

この変えられなかった現実の後味の悪さは、この幸福な物語に深みをもたらせている……かもしれんが、全体的にハッピーな結末の中で、どうにも後に残る苦味になってしまっているのも事実。彼らの元気を自分も祈るが、しかし今は珠彦と夕月を祝ぎたい気分である。おめでとう〜〜。

……いつのまにやら、昭和オトメ御伽話なんてのも出ていた。これも読まねば……。

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