『彗星★少年団』感想:ノスタルジックな田舎の少年少女日常物語

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作・倉薗紀彦。2012年。

田舎を舞台にした、在りし日の子供たちの平和な日常物語。天体観測的なタイトルだが、天体要素は薄い。

小さな冒険譚というわけでもなく、また小さな恋のメロディの賛美歌というわけでもない(ただしそれなりに響いてはくれる)。本当にただの日常を描いた綺麗な話だ。こういう漫画は本当は一日3分1話くらいで読んでいくのがよいのだろうが、単行本なので一気に読んでしまった。特に面白いとも思わなかったが、こういう漫画はどちらかというと「つまらなくはない」ことが重要だろうとも思う。

以下感想。

目次

上品なオカズだけで出来たみたいな

田舎の小学生物語。やや群像劇チックだが、あえて一人主人公をあげるならば星川るいだろう。彼女が東京から田舎に引っ越してきたことから、この話は始まる。

しかし話といっても、これといった話はないのである。筋がないのが筋とでもいう言うべきか。最初のほう、主人公格の星川は可愛い女子なので、転校早々男子にチヤホヤされ、それが面白くない女子グループからちょっと嫌がらせっぽいことをされるも、程なく解決し特に尾を引かない。その話は本当にそれっきり。このような数ページのドラマにもならないドラマが28話、200ページにも満たない1冊に詰め込まれている。

これは多分、雑誌連載で読むべき漫画なのだろう。多くの連載が載っている雑誌の中で、箸休め的な位置づけにあったのではなかろうか。それを単行本にすることは、一品物のオカズだけで晩御飯を作るようなものだ。一品一品は悪くないし、合わせれば分量もそれなりにある。にも関わらず、どこか物足りなさを感じるのは、メインディッシュにあたるものがないからだろうか。

永遠系理想世界

一応、最後はそれなりにドラマチックではある。るいの母親のこと、るいがまた田舎を離れ再び東京に行くこと。でもまた「帰って」くる、と。「彗星」をタイトルに課しているのはそういうことらしい。そしてエピローグで、大人になったるい達の再会と、教師になったるいが暖かく見守る、かつての自分たちのような教え子たち。

ここに描かれるは一種の理想世界。物語で描かれる理想世界には、大別して「インパルス」と「永遠の周期」があると思っている。たとえるなら、太陽の燃え上がり燃え尽きる一瞬を捉えたような話と、ぐるぐると綺麗な弧を描き止まらない振り子のような話とでもいえばよいだろうか。このノスタルジックな漫画は、後者にカテゴライズできるだろう。

この話はあまり綺麗で上品なので、味気なさも感じる。しかしこの類の話は、面白いかどうかよりはつまらないかどうかのほうが重要かもしれない。少なくともつまらなくはない。それで十分なのかも。お寿司のガリとマグロでは役割が違うというものだ。

雑誌の連載で読むように、一気に読むのではなく、何回かに分けて少しずつ、一話一話、時間をおいて、登場人物たちと一緒に時の流れを感じると、また違った味わいも感じられたかもしれない。

…この漫画は最後まで綺麗に終わるのだが、後書きに「射精魔人カウパー君」などという悪酔いしたような文字列が目に飛び込んできて衝撃を受ける。なんと、著者の前著らしい。その漫画で見出されたのが漫画家を続けるきっかけだったらしいから、この話の礎が「射精魔人カウパー君」という風にも考えられ、そう考えると変に感慨深い。いや考えなくていいんだが。しかしこの絵柄でそんな漫画描いていたんだろうか。ちょっと読んでみたい。

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