作・八十八良。2014年より1巻。もうすぐ6巻発売。この記事は3巻までのレビュー。
面白いわーこれ。八十八良といえば『ウワガキ』という良質のラブコメ漫画を描いた人なので、期待して読んだのだけれど、期待に違わず面白かった。
老衰意外で人が死なない不思議世界で、恋すると死ぬ病が大流行というラブコメの予感溢れる素敵世界観だが、そこでラブコメを演じる主役級が、おぼこな仕事女とハードボイルドな刑事というまったくラブコメに縁遠い男女。そんな彼と彼女が、世界観と相まって魅力的に描かれており、ラブコメ的な味わいが奥深くて。ニヤニヤというよりはニヤリ。ニヤリが続いてニヤニヤ。
ハードボイルドなラブコメという二律背反をやってのけている。以下1-3巻感想。
ハードボイルドなラブコメ
この漫画は面白い。何がいいって、雰囲気ハードボイルドなのにしっかりラブコメしているところ。ハードボイルドは渇いた男の世界であり、ラブコメとは対極に位置するジャンルの一つだと思うのだが、この世界観では妙にマッチしている。いや本当にハードボイルドってわけじゃないんだけどさ、ただ主人公の表紙の女の子はまだしもラブコメしそうな感じがするけれど、もう一人の主人公というべき男側がこれだよ↓。
なんか東條仁とかの漫画に出てきそう。もしくはヤクザ漫画の静かなるドンの強キャラっぽい。とにかくラブコメ世界の住民ではない(静かなるドンは見方によってはラブコメかもしれんが)。まして主役だと?
だがこの男が表紙の女・風鈴とラブコメする。具体的には先に惚れた方が負けという命懸けの戦いをする。正直1巻読んでいる時はマジかよと思っていたが、これが中々どうして、よかった。
ニヤリなニヤニヤ
世界観のために恋愛が必然となっているからこそ。老衰意外で人が死なないという不思議世界で、愛したら死ぬという病が流行る素敵ラブコメ世界観。その病の元はベクターと呼ばれ、ベクターを愛したがために死んだ妹を持つ剣崎は、是が日でもベクターとその背後にある組織を壊滅させたい。
そして剣崎を殺す指名を受けたのが、剣崎の同僚でありながら、その実剣崎の追う組織に属し、ベクターを逃がす「逃がし屋」をしている風間リンこと風鈴。この世界で「殺す」とはもちろん「愛される」ことを意味する。だが風鈴は戦いしか教わってこなかった恋愛経験ゼロのオボコな眼鏡。どうしたらよいかわからず、とりあえず恋愛マニュアルを片手に剣崎を落としにかかる。剣崎は風鈴が組織と繋がっていることを察し、彼女の行動の意味することを理解した上で、付き合いを了承する。
そうして、ハードボイルドな刑事と恋愛興味なしのオボコな眼鏡という変なカップルが、必然性のもとに爆誕。このまったくラブコメ映えしなさそうな二人が、見ているとついニヤリとしてしまうのだから、まったく実によくできている。
恋愛慣れしていない風鈴が、恋愛マニュアルを真に受けて一つ一つご丁寧に実践し、それを一応付き合ってやる剣崎の姿が非常にコメディカル↓。
剣崎のツッコミがクールである。多分大丈夫じゃない本。その後のやりとりがまた素敵。
風鈴「それとやはり煙草の臭いが不快です これでは次のステップに進めません」
剣崎「次とは?」
風鈴「舌を入れます」
剣崎「わかった その本 捨てろ」
まったくいいリズムである。この本はその後も風鈴の聖典として大活躍。
風鈴の間違えた攻めはとどまるところを知らない↓。
あまりにも直截な要求は、剣崎をして間の抜けた顔で思わずタバコをポロッとさせる。集中線が素敵だ。謎の迫力。この後、タバコを拾い上げる風鈴、タバコを受け取る剣崎、顔を逸して「却下だ。メシに行くぞ」この間がいいなぁ。
この馬鹿バカしいやりとりを堅物そうな刑事・剣崎が頭を抱えてあしらう様がとてもいいのである。剣崎にしても恋愛慣れしているわけではないし、性格的にもエスコート出来るタイプではないので、結果風鈴が暴走するばかり。
この茶番が映えるのは、これが命懸けの駆け引きであることが大きい。だからこそ緊迫感がある。また、形は違えど、両者とも愛とは遠い存在でありながら、必要のために相手に愛させようとする思想に矛盾した行いをする様は滑稽でありながら、徐々に相手に惹かれ合っていく姿は面白く、実はけっこうお似合いなんじゃないのか?と思えてくるのが実にいい。
なんというか、甘酸っぱい青春系ラブコメのキュンキュンくるようなニヤニヤでは決してないのだが、こう、ニヤリとする。ニヤリ、ニヤリ、ニヤリ、略してニヤニヤ、そんな感じだ。
いったい4巻以降はどうなるんだろうかと、楽しみな作品。