『死人の声をきくがよい』12巻(最終巻)感想:幼馴染なふたりのすれ違いとその結末

ひよどり祥子, 死人の声をきくがよい 12, 2019

2019年全12巻完結。完結……マジか。正直この巻で終わるとは思っていなかった……。

割と超展開。まぁ作者さんらしいっちゃらしいのか。そして切ない。

そんなこと考えても仕方ないのかもしれないのだけれど、いったいこの話はなんだったんだろうか、なんて思うと、岸田くんが最後笑えるまでの話だったんじゃないか、と考えてしまう。どこまでも、岸田と早川さんの、幼馴染な恋愛譚であった。

以下最終巻たる12巻感想。

目次

急転直下

正直、読み始めた時にこの巻が最終巻だと思っていたわけではなかったのだが、目次にオカルト研究会 最後の夏、なんてのがあったから、なんとなく不穏さは感じていた。この物語は、どちらかというと全体的に時間を感じさせない話であったから、最後、なんてのは基本的にないはずで、例外があるとすれば、それは物語が終わる時だ。

で、その不穏な感じはそのとおりで、物語は急転直下、一気にクライマックスへと向かっていく。その急展開たるや、作者さんが他の短編でやっているようなことそのまんまなので、この7年にもわたる長期連載の末でもそれをやるのか、とちょっと驚いたのだけれど、まぁでも作者さんらしいと言えばそうかもしれない。

綺麗だな、と思った

展開が非常に凄まじい割に、綺麗な終わり方だな、という印象がある。それは多分、世界がどうなるとか皆との関係とか、それは割とどうでもよい話で、この物語は、どこまでいっても岸田と早川さんの関係に行き着くからだろう。二人の関係がとても綺麗に終わったから、物語全体についても綺麗だなと感じたのではないかと思う。この二人の話さえきちんとしていれば、それでいいんだ。崩壊していく世界なんて、岸田と早川さんの心情を語る風景に過ぎない。

幼馴染なふたりのすれ違い

崩れ行く世界を背景に、心地よく続いた二人の関係にも終止符が打たれる。というより、終止符を打った。岸田自身の意思によって。

作者さんはお約束をあざ笑うかのような展開を連発してくれるので、正直話の展開もその意図も俺には想像つかんのだが、魔子が言う「君の方が(早川さんを)引き止めている」は、やはりキーポイントであったらしい。これ1巻だから、ベースは最初からあったんだなぁ。

早川さんを現世に留められていたのは、霊力の高い岸田が無意識的にやっていたことだったらしい。恐らくは、抑え込んでいた恋心に発端があるのだろう。幼い頃、成長した自分が早川さんを殺してしまう、という予知夢をみて、それ以来彼女を避けるようになったわけだが、それは岸田にとって本意ではなかった。

他に方法はあったとも思うが(6巻のパラレルワールドは別の方法を選択した世界だったのかもしれない?)、助けになる人もいない小さな子供であった彼には、それが精一杯だったのだろう。意識的なのか無意識的なのか、恋心そのものを心の奥底にしまい込み、呼び名も「涼ちゃん」から「早川さん」に変え、距離を取っている。

一方で、早川はなぜ急に岸田が急に距離を置くようになったのかわからなかっただろうし、多分納得もできていなかっただろう。だからこそ、岸田のことを彼女のほうでは変わらず「純君」と呼び続けていたわけだ。岸田に死の蛇の話を切り出され、「変な奴がまとわりついてる」と言われた時に、それが自分に言い寄っている先輩のことだ、と早合点してしまったのも、岸田のことを意識しているから。岸田に呼び出された時のまんざらでもなさそうな表情から見るに、ひょっとして告白、ないしそれに近いことをされるのではないかという期待もあったのではなかろうか。岸田の自分に対する好意を、彼女は避けられてなお信じていたのだろうし、実際にそのとおりだったんだなぁ。

仲睦まじい死後

岸田の努力虚しく、結局早川さんは殺されてしまう。彼女を死なせないために距離を置いたのに、結局死んでしまったのだから、岸田にとってはたまらないだろうけれど、そうした気持ちは心の奥に押し込めているので、表面上は大して動じていない。けれども、岸田の無意識の執着が、彼女を死してなお現世に留まらせた。そして、生前の生活を取り戻すかのように、二人は日常を共にするようになる

とはいえ、早川は無感情ではないものの、生前のような屈託のない笑みを見せることはない。能面のように無表情で、また言葉を発することもない。岸田のことは守るけれども、その生活に強く干渉することもない。岸田が女の子と仲良くしても、特に何かアクションを起こしたりはしない。まぁせいぜい岸田をちょっとじっと見るくらいのもんで(あいかちゃんに投げキッスされた時とかゴーストからのラブレターとか)。それどころか、えぐっちとダンスパーティーに行く時は、何をするでもなくただただ薄くなるばかり。

まぁ岸田の想いが早川さんを現世に留めていたのであれば、女の子と仲良くなったら早川さんはそりゃ消えるよね。で、多分それはそれでいいと、あるいはそうあるべきだと、彼女は思っていたのかもしれない。既に自分は死んでいて、一方岸田は生きている。死者と生者がいつまでも一緒にいて良いはずはなく、最後岸田が言ったように、別々の道を歩むべきなのだ。

もっとも、早川への恋心を再び自覚しつつあった岸田は、えぐっちよりも早川さんのことを選んでしまうのだが。そして、霊感の高まった岸田は、あろうことか早川さんに触れられるようになってしまう。が、それは同時に他の招かれざる死者たちに触れられてしまう、ということでもあった。

岸田は仲間に引きずりこもうとする死者たちとの戦いでノイローゼ気味になる。それは、やはり生者と死者は一緒にいることなどできないという現実をつきつけるものだった。早川は岸田を助けるべく、元に戻すのだが、その際には、名残り惜しむように、あるいはその感触を心の刻もうとするかのように、岸田の頬に触れている。それが、最後の彼らの触れ合いだった。

悲しい告白

やがて、岸田はハッキリと早川さんへの気持ちを自覚するようになる。そして、それは自分こそが彼女を現世に留めているのだと理解することでもあった。恐らくは、もっと前から気づいていたのではないかと思うが、それは二人の心地よい関係の終わりでもあったから、なかなか認められなかったのだろう。生者と死者が一緒にいるべきではないなんて、岸田にもわかることなのだし。

それでも、岸田は早川への恋心をハッキリと認める。そうすることが、早川のためであり、また自身のためでもあるからだ。

なぜ認められたのか。世界の状況がそうさせた、というのはあるだろうけれど、それよりも、生前気持ちを抑え込んだが故に作れなかった思い出を、作ることができたからじゃなかろうか。なにも大げさな事件ばかりではなく、一緒に登校したり、テレビを見たり、なんてことのない生活の思い出。つまり、岸田と、恐らくは早川にもあっただろう未練、それを解消できるだけの時間を、二人は過ごすことができた

そして、岸田は決断する。いつものように自室で二人きり、二人は向き合い、生前ついに言えなかった想いを打ち明けた。それは同時に決別を意味する、あまりにも悲しい告白だった。

死人の声

岸田の想いを受け止めて、今まで身振りでしか意思を表現しなかった早川さんが、彼の耳元でそっと何かを囁く。早川さんの霊体は岸田の霊感で補完されている。見ているだけで、特に声を聞こうとはしてこなかった岸田が、秘めた幼馴染への想いに向き合ったからこそ、早川さんは最後に、言葉を発せられたのではなかろうか。

早川さんが囁いた言葉は、「僕だけの秘密」として読者にも明かされないが、それは多分、僕ら読者が想像するとおりの、ありふれた、陳腐な言葉なんじゃないかと思う。彼と彼女の関係だからこそ、唯一無二の意味を持つ。文字にしてしまうのは、野暮ってもんやね。

そして早川さんはこの世を去り、岸田は生者としてなお生きる。前に向かった岸田からは、死の蛇も姿を消す。それは受け身で巻き込まれるばかりの彼ではない。好きな子を殺してしまう未来に怯え、逃げるばかりだった彼ではない。最後戦いに赴く際の、岸田のどこか精悍な顔つきは非常に印象深い。

そうして物語は幕を閉じる。最後世界はどうなったのか、それはどうでもいい。この物語で語られるべきことは、岸田と早川の不幸なすれ違いが、どのような結末を迎えたのか、ただそれだけ。世界はその延長線上にある。

ハッピーエンドではないけどね

と、以上が自分の勝手な感想・解釈で、まぁ別に作者さんがどう考えていたのかは知る由もないわけだが、それはそれとして一読者としてはなるべく素敵に考えたい。それなりに長い間追いかけてきたしねぇ……。それにしても、元々は読み切りくらいのノリだったはずの本作は、多分後付の設定も多かろうに、すごい辻褄をあわせたなぁと思うとちょっと感動する。これが作家パワーか……。ベースは考えていたにせよ、本格的に終着点を見据えたのはいつくらいだろう。

まぁさすがにハッピーエンドとは言い難いのだけれど、岸田に未来があることを考えれば、一つの美しい悲恋、といえるかもしれない。別れはいつか必ずくるものなのだし。でもやっぱり悲しいなぁ。早すぎるよなぁ。

早川さん亡き後(という言い方でいいのかわからんけれど)、世界をどうにかできたとして、岸田はここまでに出てきた誰かと一緒になったりするんだろうか。えぐっちとか今回出てきさえしなかったが、やっぱりあのダンスパーティーで盛大に振られたのかなぁ。けど、早川さんがいなければチャンスはあるよね。

あとはいとこのみどりちゃんか。それに会長……はないですね。ない。知り合いにいたら面白いけどね……。

魔子はどうだろうなー。あかんのかなー。なんだか何もかも失って、一番悲惨だった気がするけれど。というか兄のことショックなんだけど。闇夜に遊ぶな子供たちだよねぇ……。何があったんだ。救いはないのですか……。岸田くんは向こうはなんとも思ってないって言うけど、そんなこともないと思うんだがなー。。。救ってあげてよ。。。

さすがにゴーストちゃんはあるまいね。基本的に岸田の色恋沙汰については見守るスタンスだった早川さんだけれど、ゴーストからラブレター(?)を受け取った時には歓迎していなさそうに岸田のことを見据えていたが、早川さん的にも、ゴーストとくっつくのだけはやめてほしかったのではないか 笑。どう考えても作中最悪のサイコパスだし。生きていたら早川さまは自分が殺している、彼女はどのみち死ぬ運命だった、だから過去に捕らわれないでと熱弁するシーンはすげーわ。ってかそもそもすれ違いの発端お前かよっていう。熱弁するゴーストちゃんを見る岸田の冷たい目よ。

でもゴーストちゃんは不思議と魅力的なキャラやったね。なんだかんだで一途キャラだし。早川さんとも共闘したりね。八代がやらかした時には彼女の復讐で溜飲下がった人も多かろう。そら人気出ますわー。「はずかしすぎる!!」めっちゃいいキャラなのに、作者さん的には微妙だったんだろーか。最終巻は出ずっぱりやったけど。

変な女にばかりモテる、岸田くんのいろんな女の子とキャッキャウフフはこれからだ!良い人生を。合掌。

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