最近ちょっとナイーブになっていて、どうにも楽しい気分になれない。こういう時にこそラブコメでも読んで元気をもらいたいものだが、その気力さえなく、なんだか知らないが思うままにキーボードを叩いている。
さて、Twitterのタイムラインを眺めているとバイバイ、ヴァンプという同性愛者を揶揄しているとも取れるような映画が炎上している、という情報が入ってきた。
映画を見なくなって久しく、話題の映画についても見る気はないので、特に映画自体についてアレコレ言う気はない。だいたい同性愛者の表現については、ラブコメ漫画のほうがよほど色々と問題があって、ただニッチだから話題になっていないだけだ。俺としては気に入らないところはあっても表現の自由は守られるべきだと思いつつ、色々と思うところはある。
いつもどこかで火の手が上がっている
どうにも気分がすぐれない。それというのもあまり良くない酒を飲んでしまったからじゃないかという気がする。Amazonの定期おトク便は遅配していて家の中にコーヒーがないし、いくら寝ても寝た気にならないし、仕事も勉強もする気にならない。漫画すら読む気にならない。
こんな状態でもTwitterは見られるのだから、あれは確かに心理的ハードルが異常に低いメディアなのだなと思う。更新すれば毎回何かしら新しい情報が入るし。依存してしまう人がいるのもまぁ頷ける。
で、なんとなしにTwitterを見ていて、バイバイ、ヴァンプという映画が炎上していることを知った。どうも、ゾンビ映画のゾンビを同性愛者に置き換えたような設定で、確かに「よく2020年にこの設定の企画がとおったな」と驚愕するものではあった。ということで、例によって「公開停止にしろ」「内容を編纂しろ」と怒る人も出始めている。
世の中には色々な価値観があるが、自分の中でもっとも重きを置いているのは自由であることだ。その中にはもちろん表現の自由も含まれる、というか筆頭だ。まぁもちろん人を殺していい自由とかそんなものは認められないわけだが、人を殺したいという心情を創作物で表現する自由はある。人間そんなに綺麗じゃないからね。
したがって、たとえこの話題の映画が差別的な内容を含んでいたとしても、それを以て公開停止にすべきだ、なんていうのは俺からしたら行き過ぎで、「この映画は差別的な内容を平気で垂れ流してやがるから見ないほうがいいぜ」とそれこそブログで書くくらいがちょうどよいと思っている(みんなTwitterなんてやめてブログで5000文字くらい文章書いたら気分も落ち着くのに)。
まぁでも、俺のような人は世間では少数派で、だいたいみんな、自分の気に入らないもの、自分を傷つけるものは市場に出ないように圧倒的な力で潰されるべきだと考えているのだろうと、そんなことを思ってしまうのは今コーヒーが家にないからかもしれない。
ラブコメ漫画の同性愛キャラ
なので、いかなる内容でも公開停止など求めるべきではない、というのが俺のスタンスだが、それはそれとして、聞こえてくる内容についてはやはり思うところがないでもない。
気になったのは、同性愛が感染する、という病原菌のような表現よりも、同性愛者になった者が性欲を抑えられないような表現をされている、という点だった。まぁ俺は映画を見ていないので、実際にそのような表現が映画内でなされているのかどうかはわからないのだが、なるほどありそうだなぁと思ったのは、特にラブコメ漫画に、そういう性的に奔放な同性愛キャラが多いからである。
ラブコメ漫画は、やけに同性愛キャラの登場頻度が高いジャンルだ。それはもちろんLGBTに配慮しているからではない。むしろ逆で、何も考えていないからというほうがよいだろう。それは隣に異性の幼馴染が住んでいて、道でぶつかった美少女や美少年が転校生として同じクラスにやってきて自分の隣の席になるのと同じレベルの話なのである。同性愛は、便利な記号の一つに過ぎない。
まぁもちろん、真剣に同性愛の難しさに向き合った作品もあるのだが、全体としては少ない。だいたい、なんだかんだ言いつつも作者自体がほとんどの場合異性愛者だしな。自分は違うし、周囲の人も違うから、概念としては知っているけれど、実際のところは何もわからない。
いやまぁ、実は周囲にいるのかもしれないのだが、同性愛者はよほど親しくならなければカミングアウトしないので、やはり現実感がなく、結果、ツインテールで金髪のブラコン妹くらいのリアリティになってしまうわけだ。
つまり、面白おかしいキャラ付けの一つなわけで、ラブコメ漫画の妹キャラが現実の妹を参考にしていないように、同性愛キャラも現実の同性愛者を参考にしていない。
それよりも、キャラクターとして面白いこと、変わっていることが求められるので、ラブコメ漫画の同性愛キャラは性的に非常に奔放であったり、同性であることを利用してヒーローやヒロインに異性愛者であれば許されないスキンシップを平然と取ったりする。
特に野郎向けのラブコメ漫画では、同性愛系男嫌い暴力女発情編という、いったいどこからの需要なの?と聞きたくなるそれこそモンスターみたいなキャラクターもこの界隈ではけっこう見かけたりする。
この手のキャラは恋愛的にはお邪魔虫になることも多く、その癖一応女なので因果応報的な制裁も受けず(野郎向けラブコメは基本女に甘い)やりたい放題状態になっていたりして、そこまでいくとだいたい読者のヘイトを買うのだが、ラブコメ界隈には男嫌いの男という不思議な人たちも生息しているので、ひょっとするとそこらへんの需要を汲んでいるのかもしれない。
キャラクターはキャラクターという暗黙知
まぁでも、現実の妹という存在が金髪ツインテールで実は世界を牛耳る魔王であるとは誰も思っていないように、別に描く側だって現実の同性愛者が性欲剥き出しで血を好むセクシュアルモンスターだとは思っちゃいないし、読む側もそれを承知している。
で、今の所漫画ファンはそういう共通のお約束みたいなものを共有しているので、「まーた同性愛系性欲剥き出し暴力女かよ」などとブツクサ言うことはあっても、それを以て「同性愛者への偏見を助長している!この漫画は出版停止にすべきだ!」とは誰も言わないし思わない。
そして、漫画というのは社会的にはだいぶ低く見られているのが実際なので、世間の人たちも、本屋の本棚にあるかどうかも怪しいニッチな漫画の中でどんな表現がされていてもあまり気にしない。
まぁ時折、例外的に攻撃をしかけるオタク大嫌いなクラスターもあるのだが、だいたいそのクラスター自身が世間からあまり信用されていなかったりするので、大した問題にはならない。せいぜいテレビ局が日々の鬱憤をオタク叩きで晴らすのに利用する程度である。そしてみんなすぐに忘れる。だって実害ないし。
外野には温度感が伝わらない
だいたいそのジャンル外の人たちが騒ぐんだよな。実際、上で書いた映画についても、元ツイートの人は「いまどきこんな映画が出たのは驚いたけれど、表現の自由の観点から公開停止を求めるのは違う」的なことを言っていて、俺も同意する。それくらいの温度感だと思うよ。
でもその温度感がね、伝わらないんだよな。外の人には。映画ファンでもなけりゃ、自分に影響もない(と思い込んでいる)から、「公開停止」とか言えちゃう。
表現は常に誰かを傷つける
でも、あらゆる表現物は、実は常に誰かを傷つけている。特にギャグみたいな刺激的なコンテンツはそう(ギャグ漫画家の新井理恵は笑う人と傷つく人が半々だと思って描いている、というようなことを言っていたな…)だし、ギャグじゃなくても、日常のなにげない表現でも、人を傷つけることはある。
男嫌いの男は男を見るだけで嫌悪感が沸くそうだ。彼らを傷つけないためには、男を禁止するしかない。いや、マジでいるからね、男出すな!っていう人。ほんとに。そしてそれに応える作品もけっこうある。
まぁでも、嫌いなものを嫌いと表明する権利はあるし、彼らの想いに応えていけない理屈はない。好きにしたらいいのさ。別に、彼らも男が出る作品は出版停止だ!とまでは言わないからね。……まぁ出ないと思っていたのに出てきて「裏切られた!」って暴れる人はいるんだけど。謎やわ。コミュニティ荒らされて困るのだわ……。
差別的な表現だからよくないという人もいるかもしれないが、別に差別的な表現は表現の自由に含まれない、という理屈はない。……いや、これも言う人はいるんだけどさ。これは表現ではないとか言って表現の審判者になろうとしている人。特に政治が絡むと多いよな。なんなんだろうな。そもそも差別とはなんぞや、という話もあるのに。そう簡単に規制できるものではないはずなんだ。
漫画もそのうちやられるかもしれないが
漫画は映画なんかと比べると影響力も小さいし社会的な地位もぶっちゃけ低い(個人の感想です)ので、あんまり問題にならない印象だ。
ただジャンプクラスになると色々あるようで、最近も政治的なゴタゴタに巻き込まれた可哀想な作品があったなぁ。特にお隣の思想統制されるのが当たり前だと思っている人たちが絡むと実に面倒だね。まぁでもそれくらいかな。
これは現状の話であって、「(差別的だから)公開停止にすべきだ」みたいな話が一般的になっていった場合、やがてその矛先が漫画に向けられる可能性はけっこう考えられるのではないかと思う。Twitterみたいに手軽な炎上ツールもあることだし。残念な話だけどね。
漫画と表現規制といえば性表現がまっさきに思い当たるが、特定作品が槍玉にあげられるのは問題なさげな気がする。こういう炎上の仕方は特定の作品に対して起きるが、ある漫画で「見てください!この漫画にはこんなにエロい表現されてるんです!エロすぎです!!」とか言われても「え、あ、はい」としか普通の人は言えないし、まぁそもそもだいたい「……?(そんなにエロい……?)」だし本当にエロかったらむしろ売上に貢献するだろう。
だが、今回の映画のような差別問題は現実に起きるかもしれない、とちょっと思う。なにしろ、先にあげたようにラブコメ漫画なんかは同性愛キャラが多いけれど、まぁひどいキャラ付けだったりしていて、それはあくまで「漫画」なのだけれど、その温度感が外野には伝わらないからだ。
同性愛の現実感
そんなわけで、そろそろラブコメ漫画における同性愛キャラの描き方も、ちょっと用心したほうがよい段階になりつつあるのではないか、なんて思う。妹が魔王でも皆気にしないが(だいたいポジティブに描かれているし)、同性愛キャラについては今後少しずつ何か思うところがある人は増えてくるだろう。
というか、自分がそうなのだ。なぜこんなデリケートなことを書いたかというと、最近宅飲みで夜明かしした旧友にバイ・セクシャルなのだとカミングアウトされ、その時のことがちょっとモヤモヤしており、考え込んでいたところに、件のツイートを見たからだ。
しかも、お互い酔っていたからか、なんか知らんがキスまでされるというよくわからんことになった。性的な感覚が鈍化している俺はその時特に気にしなかったのだが、その後酔いも醒めてくると、アレは良くないことだったんじゃないか?という思いが募り始め、さりとてこんなことは誰かに言えるものでもなく。
彼は今の彼女にプロポーズする気でいるらしく、俺が女だったら、彼はキスしなかったのではないだろうか、とか、まぁ色々と思うところがあるのだが、この感情をうまく名状できない。深酔いしていて、どんなやりとりをしたのか、正直記憶も朧げなのだが(実はキスも夢だったのではないか)、目が醒めたら同じベッドに寝ていた自分にも驚いている。
俺が何を感じているのか、俺自身もわからないのだが、やはり実際にいるのだなぁ、と思ったことだけは確かだ。まぁ俺は特殊な例だと思うが、社会の中で同性愛が認知され始めるにしたがって、漫画の中の表現も今と一緒ではいられないだろう、とは実感をもって思う。
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