『理系が恋に落ちたので証明してみた。』5巻感想:人類の役に立つラブコメ

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作・山本アリフレッド。2019年5巻。表紙も内容も素敵だった。いやこの二人は今回特にどうということもないのだけれど。

正直前巻はだいぶマンネリ感あったんだが、今回は眼電位の計測なんてマニアックな話があったり理学と工学の違いという理系的に重要な話があったりガチ情報的な内容あったりと、理系要素満載で満足度が高いうえ、ラブコメとしても大盛り上がりで最高だった。

お硬い工学系研究室出身者の自分は、虎輔の啖呵に感動した。以下5巻感想。

目次

理系要素復活の兆し

4巻の時は「理系要素薄くなってきたなー」なんて思っていたんだけれど、いやね、本巻は最高やったよ。作者さんにありがとうって言いたいわ。

まず理系度が高いし。眼電位って目の付け所がいいよな。でも筋電位測ってそうな装置やけど実際どうなんかな。そういや筋電位ネタはあったっけか。脳電位ネタもそのうちくるだろうか。まぁなんにしても心拍数地獄から脱せられてよかった。

理系も色々ありまして

そして理学と工学の違いってさ、嬉しくなる話だな。「理系」と一括りされるけれど、理学系と工学系は人文系と社会学系くらい違う。一言で言うと目的が違う。それは作中でクマが解説しているとおりで、ざっくり言えば理学は真理の探求、工学は誰かの役に立つ技術を目的としている。

このサイトは人類の役に立たないブログです

そう、役に立つ技術、なんだよね……この役に立つっていうのは、極めて真面目な話で、生活を便利にするとか、人の命を助けるとか、そういう類のもの。何が言いたいかというと、基本的に娯楽は風当たりが強い。そりゃそうだよな。だって、役に立たないから娯楽だろう。まぁ役に立つ娯楽もあるかもしれないけれど、それは結果論であって、娯楽なんてのは基本的に役に立つとか有用であるとか、そんなことは考えないんだよ。なによりも楽しいこと、それが娯楽ってもんさ。だから、娯楽の最たるもの、ラブコメ漫画の感想ブログであるこのブログに、俺はこう書いている。

2019年2月16日現在のうちのサイトの「はじめに」

↑これはうちのサイトの「はじめに – 少年は少女に出会う」です。第一声で「人類の役に立たないブログです」ってこう書いたのは、俺が工学系の研究室を出て、それ以来なんちゃって技術系としてとりあえず飯を食っていることと、無関係じゃないんだ。これは、俺の嘆きなんだよ。

いや、もちろん、誰かの役に立つこと、それは素晴らしいよ。俺もそうありたいと思う。だから仕事だってする。死ぬまで仕事したいと思う。これは本当だよ。でもその一方で、時々何もかも嫌になる。だって、役に立つとか立たないとか、人間ってそれだけじゃないだろう。でも、工学、技術の領域でそんなことは言ってられない(工学と技術も違いがあって、ニュアンス的に「工学と技術 | Adachi Lab.」とか)。それが存在理由だもの。

虎輔に感動

つまり、エロゲーというどう考えても生産的とは言えないTHE 娯楽の方法論について語る、虎輔の発表は工学系としてすごくすごく勇気がいる発表です。研究室によっては比較的娯楽にも許容的なところがあるかもしれないが、対外的な発表会でやるのはヒッジョーにハードル高いはず。

そして「それ何の役に立つの?」という工学部出身なら一度は受けるこの基本的にして最大の難問(と書いて"トラウマ"と読む)、これに対して堂々と「俺の役に立つ」と言い切る虎輔の姿に、俺が感動すら覚えたことも、無理からぬことなんだ。まー、もちろん「俺の役に立つ」では工学系としてよろしくないので、虎輔は

現在ではゲームをプレイする消費者側も!やり方次第で色んな価値を生み出せるんス!!オレの研究もいつか誰かに役立つと信じてます!!

山本アリフレッド, 理系が恋に落ちたので証明してみた。 第5巻

と、ちょっと無理やりな理屈で締めくくるのだが、一理あるような気はするし、なにより熱い思いが確かに伝わる。「信じてます!!」ってね、20代前半の若者にこんな迸るエネルギーをぶつけられたら、そりゃその道の大先輩だって心揺さぶられるさ。これは本当にすごいことだ。楽しむことを役に立つことだと考える、それは素敵な考えだと思う。

ラブコメ浪漫は理屈を超える

とはいえ、俺がラブコメ読んでニヤニヤすること自体は役に立たないので、やっぱりこのサイトは役に立たないブログです。役に立たないからこそいいんだよ。

というわけで、気を取り直してニヤニヤしよう。この漫画にはそれがある。工学論と一緒にラブコメがある。なんて素敵なんだろう。

前巻の終わり、雪村が後輩ちゃんを抱きしめるシーンを氷室が目撃、なんていう修羅場待ったなしの引きを見せられたときには「ちょ、ちょっとこんな展開望んでないんですけど!」と戸惑いがあったのだが、いい具合に昇華された。最高のキスシーンで締めやがって……。俺満足。

まぁ多少ストレスな展開はあったけれども。特に雪村の「俺達は別に付き合っている訳でも無いだろうが」は見た瞬間「うわっ」と。それは言ってはいけない言葉で、虎輔の言う通り大チョンボ

でも、なんでこれが大チョンボなのか、きちんと説明しろと言われると、難しいかもしれない。説明を試みるならば、これまでに雪村と氷室のやってきたこと、そのうえで築かれた関係を、否定するものだからだろうか。

雪村の言葉は正論である。正論とは正しい論理である。AならばBである。そしてAがAたる所以は?それは誰にもわからない。

今回のケースで言えば、雪村と氷室は付き合っていない、これがAである。だが現実には、二人は好き合っていて、互いにそれを意識している。これをA'としよう。このA'が、口には出せない、しかし本当のAである。だからこそ、氷室は雪村が奏を抱きしめたことを責めずにはいられなかったのだし、雪村にはそれが耐えられなかった。そうしてつい、建前であるAを持ち出してしまった。しかしそれは、本当であるはずのA'の否定である。真実は一つなのだから……。

まーもちろん、そこに論理的厳密さはない。感情に論理的厳密さはないのだから、当たり前の話。こうして説明しようとすればするほど、本質から遠ざかっていくような気もする。論理も有用性もなにもない、ただ心揺さぶられるラブコメ浪漫。素晴らしいじゃないか……。

キレが上がっている?

ところでどうでもいいが、全体的にボケとツッコミのキレが上がっている気がする。↓とか。

山本アリフレッド, 理系が恋に落ちたので証明してみた。 第5巻

とんでもないことをさらっと言ってのけ、唐突に出てくる場違いな発電装置にザァァァの擬音がシュール。「お前すごいな!!」のシンプルなツッコミが良い。このあたりゆうきゆう漫画のようなキレがある。まぁ雪村は漫画でわかる心療内科の療先生のようなツッコミメガネではなく、どちらかといえば基本ボケメガネなので、ツッコミは後輩ちゃんと虎輔に期待なのであるが、既に証明終了した感のある巻末、もうそろそろ終わってしまうのだろうか……。どれくらい好き合っているかを計測し好き度を理論化する編とかになったりしませんかねー……。

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