この前、こんな記事を書いた。
この記事はネガティブな感想記事やレビューは当然あって然るべきもの、という主旨なのだが、ひょっとすると「だったら何を言ってもいいんだな」と曲解する困ったさんもいるかもしれないなぁと思ったので、ちょっと早めにフォローすることにした。
この記事は「何を言ってもいいわけではない、むしろ自由にモノを言うために線引きはしっかりやってこうや」という記事です。
いかなる事由があれどやってはいけないこと
何があっても絶対にやってはいけないこと。まぁ見ればわかるんだけど、レビューとか関係なくそれはダメでしょっていうこと。
人格中傷・誹謗中傷・罵詈雑言
やってはいけないことの筆頭は、「著者や読者の人格を侮辱すること」。「こんな話を書く気が知れない」とか「こんな本を読むやつは知性が低い」など。これすら上等な部類で、多いのは「バカ」だの「アホ」だの「死ね」だの、まぁ一言で言うと罵詈雑言。
言うまでもないことのように思えるが、Amazonのレビューを見て回ると多くの反面教師を見つけることができる(ブログのコメントにつくこともある)。しかし、これらはあってはならないし、場合によっては法的措置を講じられる可能性もある。人格中傷は作品の評価とはまったく異なるもので、表現の自由では正当化できない。
まぁ「どこからが誹謗中傷なの?」という境界線は実は明確ではなく、実際時代と土地で変わっていくもので、絶対的な基準があるわけではない。だが少なくとも自分自身で「これは誹謗中傷ととられるかも」と思うことはやめたほうがいい。
差別的な言葉
中傷と分けたのは、誹謗中傷は主に特定の「人」に向けられたものに対し、差別は特定の「属性」に向けられたものなので。まぁこれもわざわざ言うまでも無いことだと思えるのだが、実際にはよく見る。
差別とは何かはもはやそれ自体が一大テーマだが、基本的には属性に対する批判はやめておくほうが吉。特に人種・宗教・性別・国・民族あたりはやめとこうそうしよう。憲法にも書いている。
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
日本国憲法 第14条
とまぁ、大雑把に言えばそりゃそうだと思うかもしれないけれど、これも誹謗中傷と同じで、その境界線は実は明確ではないんだよ。個人に対する誹謗中傷よりも対象がふわっとしている分、こちらのほうが難しい。
たとえば「男性は〜女性は〜」とか言いがちだけど、これは字義的に捉えれば性差別になりかねないが、これを全部禁止しろってのはどう考えてもやり過ぎだろう。ってかラブコメ語れないよもう。でも取り上げ方によってはアウトになる可能性はある。ここらへんの扱いがどうなるかは、文脈はもちろん、社会的にも流動的で、時代と土地と共に変わっていく。今大丈夫だから明日も大丈夫、ということにならないことは意識したい。
やめたほうがよい、あるいは意識したいもの
やったらダメとは言えないんだけれど、自分の考えとしてはやめたほうがいいんじゃないかなとか、あるいはやめることはないんだけど、自分が言っていることがどういうことかの意識はしたいよな、というもの。
直接的な否定語は避ける
「面白くない」「つまらない」はオブラートに包みましょうや、という話。これは自分を守るためでもある。やっぱりまぁ、どんなことでも好きな人はいるし、自分の好きなものが面白くないと言われるのは、それこそ「面白くない」話なのでね。それに現代、作者さんに直接言葉が届いてしまうこともままあるからさ。生の言葉は、ちょっとキツいよね。
まぁオブラートに包んだところで意味が変わるわけではないんだけれど、「オブラートに包む」という行為自体が、或る種の配慮であると大人ならわかるので、まぁそれくらいで十分。もちろんそれが形骸化してしまえば意味は無く、大事なことは周囲から見て「ああ、気を遣ってはいるんだな」と思えることだろう。
ただ勘違いしてはいけないが、批判してはいけないわけではなく、むしろレビューの観点では言うべき。これは後述する。否定的な表現をいかに包むかは、レビュアーの腕の見せ所でもある。
相手によって言葉選びは変わる
相手によって言葉選びは変わってくるよね、っていう話。
売れない作家に鬼畜レビューとか、鬼の所業はやめよう。鬼畜レビューとは何か問題はあるが、まぁ辛辣に過ぎるレビューとして、超売れっ子のプロ相手でもどうかと思われるのに、ましてアマとかセミプロみたいな無名の作品に対してやるのは、さすがの僕もやめたげてよぉ……ってなる。
まぁ金を無為にしたような気持ちになったときのいたたまれなさはわかるんだが、文化は金銭のやりとり以上に心のやりとりが重要なはずだ。プロになるほど売れるほど、金銭的な比率が大きくなるけれど、逆に言うとアマチュアに近くなるほど心のやりとりが重要になる。アマチュア・セミプロなんてダサイクルでええねん。
といっても商業ならプロはプロなので、みんな同列といえば同列かもしれないんだが、しかしそれにしても売れてないんだろうなぁってのはやっぱりあるわけで、一昔前なんかは、そういう作品だとAmazonでレビューが1つしかない、みたいなこともあったのだけれど、それが☆1の鬼畜レビューだったりした日にゃ、血も涙もないと思ったわな。基本的に好意的でありたい。
大きな主語は気をつける
特定のジャンルや界隈、属性をひっくるめてバカにしたり、揶揄したり、皮肉を言ったりするのは、要注意。これは差別とは別の話で、ダメというわけではないです。ただ、注意。完全に避けるのは無理だしその必要もないんだけど、少なくとも意識はしたい。
私はそんなことしませんって人は、自覚がないだけだと思うよ。
ありがちなのは、自分が属している属性や、好んでいるジャンルを自虐的に言うパターン。よくあるものとして「男(女)なんてバカだから……」で始まる持論展開なんか人類の半分巻き込んでバカ扱いしてるし、このサイト的に言えば「カプ厨」も厨扱いで、まぁよろしくないということになる。
まぁでも、確かに理屈では他人を巻き込んで自虐はよくないってことになるんだけど、実際よく使われるし、今あげた例はあまり気にされないよね。軽口と同じで、親しみがあるからこそ言える面もある。一方で、親しくない人に軽口を叩けば、ただ軽んじていると思われても仕方ない。言葉って本当にその文脈で意味を変えるから、とにかく一義的に捉えないようにね、ってなんか話ずれてきた。
これはどちらかというと、言ったからには返ってくる覚悟はしろよ、っていう話だと思います。
気をつけて渡れ
言っていい、むしろ言った方がいいんだけれど、やっぱり表現に気は遣うよねっていうもの。
「面白くない」「不満だ」「つまらなかった」ことの表明
レビュアーの人間性がもっとも如実に表れるのが、作品に対するネガティブな評価をどう表現するかだと思う。
作品が面白ければ何も問題はない。本当に難しいのは、「面白くねぇ……」と思った時だ。「面白い」と書くことには何も問題がない。しかし、ただ「面白くない」「つまらない」と書くのは問題がある。「好き」に理由はいらないが、「嫌い」には理由がいるのである。
しかし、好きと嫌いは表裏一体の関係だ。好きがあれば必ず嫌いがある。面白いがあれば必ずつまらないがある。好きだけで好きは表現できない。
まぁそうは言っても、ヘタなこと言って絡まれたくないという向きはあるかと思うが、ポジティブな評価をしていても「お前の好きな理由が気に入らない」とばかりに突撃してくる戦闘民族もいるので(マジでいる)、たとえ好意的なことを言っていても、絡まれるリスク自体は公の場で言葉にした時点で発生するんよね。
前述のように、好きと嫌いは表裏一体なので、こればかりは、言葉を選びながらもなんとか表現すべきことだと思う。
具体的なテクニックを書くと、作品の表現内容について書くのでは無く、なぜ自分が否定的な感情を抱くことになったのかという、自分の心を対象にすると、和らぐことが多い。他には、感情をその発露となる事実(行為)に変換するといった客体化なんてのもある。まぁ、どこまでいっても和らぐだけではあるんだが……。
作品のテーマに対する反駁
これは面白いとか面白くないとは別の話なんだけど、より根深い。思ったことが、時に作品のテーマや根幹に対して、真っ向から否定するようなことの時もある。これは「想定される読者ではなかった」かもしれない。けっこうあるんだこれ。
何も言わない、も一つなんだけれど、個人的には真っ向から反駁するほうが面白いと思う……が、ただ読者全体、ヘタしたらジャンル全体を敵に回すかもしれないし、またかなり分析的になるため、疲れる。
まぁ、やるならば、基本的には「合わなかった」をベースにして、なぜ合わなかったかを分析・表現するほうが安全かな。主語は可能な限り「自分」に限定して、大きな主語にならないようにするのも大事。また、作中の言動などを引用してできるだけ具体的に……などとしていくとめっちゃ疲れるほんと疲れる。
しんどい割にあまり報われないので、やっぱり適当に流すのが合理的ではある。自分の考えを整理したいとか、そういう欲求に基づいてやるべきこと、かもしれない。
結論:悪意を込めない
色々言ってきたけれど、一言で言えば「悪意を込めない」これに尽きる。自分自身悪意を込めず、また第三者的にもそのように配慮していることが、できるだけ客観的にわかるように頑張る。もし作品に対する苛立ちのようなものを感じたならば、「苛立ちを感じた自分の観察と分析」のように、矛先を変える。
逆に言うと、悪意を込めないように最善を尽くしたうえであれば、基本的に表現の自由に基づく言論(なんて大げさな)に収まるはずです。まぁ、そうはいっても、前回の記事で書いたように、最終的には受けてが判断することなので、いかに心を尽くしても伝わらない時は伝わらない。ま、できる限りでいいんですよ。でなきゃ何も書けませぬ。
地味にしんどいのだけれど、誠実なレビュー・感想を書く上でネガティブな表現は避けては通れないものなので、まぁお互い気をつけながらやっていきましょうや、という話でございました。
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