『王子様の友達』2巻感想その1:俺は王子様の友達の友達になりたいんだ!カプ厨は世界を変える

「俺はギャルゲの親友ポジションになりたいんだ!」「そのポジションになりたい人いるんだ!?」

こんなん笑うわ。正直1巻が良かっただけに、2巻は勢い続くかなぁという気持ちもあったんだけれど、カプ厨キャラ・犀川くんの登場でさらに面白く読めた。

しかしカプ厨ってのは罪深い人種だね(他人事)。実際他人の恋路ほど楽しめるものはないからなぁ。一方で自分の恋路は面倒臭い。なんて自分勝手なんだカプ厨。カプ厨最低だな。

まぁラブコメ好きは多かれ少なかれこの気質があるように思うよ。

以下2巻っていうか犀川くんの感想。メスの王子様の感想は次で……。

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野生のカプ厨が飛び出してきた!

2巻はなんつってもカプ厨・犀川くんだろう。カプ厨キャラが出るのは聞いていたのだけれど、カプ厨キャラ自体はラブコメだとちょくちょく出てくるものの、今回のタイプには新鮮さを感じた。見た目がNTRとかそういうことではなく(NTR風貌ネタは、むしろ「そういう解釈の仕方は野暮だゾ」という牽制の意味が大きいと思った)、カプ厨キャラとして面白みを感じる。

カプ厨キャラは大別して「観察タイプ」と「介入タイプ」に分かれるわけだが、基本的には観察タイプだ。このサイトだと、となりの関くんの後藤さん、かぐや様のマスメディア部かれん、宇崎ちゃんの亜実(そして父)あたりがぱっと思い浮かぶ。もっと掘れば他にもけっこういると思う。一方で介入タイプは、同じく宇崎ちゃんで主人公の友人・榊や、それは霊のしわざですの霊などがいるものの、観察タイプに比べるとやや数が少ない。また、全体として女性が多いと思う(まぁ野郎向けラブコメは登場人物自体8割くらい女だけど)。

そこへいくと本作の犀川くん「介入型カプ厨男子」は珍しい部類に入る。例に挙げた宇崎ちゃんの榊が近いかもしれないが、彼はどちらかというと「主人公の友人として」という側面が強かった。しかし犀川くんは結果的に主人公の友人となるものの、まずカプ厨ありきだ。というか、介入型カプ厨になるために友人になったくらいの感じである。これはカプ厨キャラ全体をとおしても珍しいと思う。

また、彼の言葉「ギャルゲの親友ポジションになりたい」は面白いと同時に考えさせられる。あー、ギャルゲの親友ポジって見方を変えるとカプ厨的でもあるのか、と。しかし彼らは一般的にカプ厨とは見做されない。また、ラブコメにおいてはヒロイン側にもヒロインの恋を応援するキャラはしばしば出てくるが、彼女たちもまたカプ厨とは言われない。彼らのただの友達想いである。

つまり介入型カプ厨とはただの友達想いなのかもしれない……わけもなく、ただの友達想いというにはあまりにも個人的な嗜好が入り過ぎている、つまり介入型カプ厨からは単なる友達想いを超え「この二人は絶対ベストCPだからくっつくべき」という、余計なお世話とも云うべき信条を感じさせられる

カプ厨は関係を変えない。解釈を変える

犀川くんは本作で大きな役割を果たしている。一番大きいのは、塁とるりしづの関係の解釈だろう。

るりしづは美明と百合的な感じになってしまうとお邪魔虫キャラになってしまうが、塁と近づけば魅力あるサブヒロインのポジションになり、ラブコメ的には塁と接近させたほうが断然美味しい。美明の嫉妬も煽れる。しかし本作は塁と美明の固定的なカップリング作品なので、安易にヒロインを増やすと安いハーレムものにみえてしまう危険性がある

しかし、塁とるりしづの接近に戸惑うカプ厨犀川の視点を取り入れることで、犀川の反応自体が面白いネタになるため、安いハーレムという見方を避けながら塁とるりしづを接近させられる。犀川が勝手に妄想するので、るりしづの塁に対する異性的な感情を想起させる反応も少なめで済む(してるけどね)。ってか犀川が勝手に解釈違いの妄想して勝手にダメージ受けてるのほんと草。

特筆すべきは、犀川の登場自体はと塁・るりしづラインの関係にほとんど影響を与えていないことだ。犀川が変えたのは関係ではなく、解釈である。これは、妄想キャラたるカプ厨だからこそなしえたことでもある。カプ厨キャラのこの特性を大いに利用し、大成功したスピンオフがかぐや様を語りたいだろう。

この作品は、原作の関係に一切手を加えることなく、関係を再解釈して見方を提供するだけで一つの作品として成り立たせた希有な作品。

傑作スピンオフを爆誕させるくらいだから、カプ厨キャラの解釈ネタは、作品の中で別の作品を展開しているような側面がある。塁とるりしづの関係を、犀川の解釈に取り込むことで、作品内でありながら別解釈のようにして成り立たせている。

つまり、犀川はカプ厨キャラとして登場したにもかかわらず、塁と美明の関係よりも、塁とるりしづの関係を解釈、というかメタ的に言えば「言い訳させている」というのが本作における一番の役割だろう。しかしこれによってるりしづのみならず、連鎖反応的に塁と美明の関係や魅力がマシマシに強化されてもいる。

彼は他にも色々と仕事をしており、たとえば友情面で美明の嫉妬を直接煽るなどしている。……多分そういう仕事の仕方は彼の本意ではないが。この一番の推しCPについてむしろ邪魔している可能性すらあるのは、柚希とまるっきり逆だなぁ。まぁ結果オーライなんだがね。あと塁の同性の友達というのも地味に大きい。彼は念願のギャルゲ親友ポジとしての仕事はあまりできていないようだが、同性の友達ポジションとしては仕事している。

この作品は登場人物が増える度に、他の多くのキャラと相乗効果がもたらされており、とても良い作品だと思う

……ところで犀川くんはるりしづとフラグたってんじゃないのか?(カプ厨観点)

1記事で終われない

ということで、犀川くんについて語るだけで長くなりすぎてしまい、これだけで1記事の分量に。しゃーないので、メスどもについてはまた記事を改めて書きます。1巻を2記事にわけたのは初めてではなくて、大昔にかぐや様でもやっている。あの時もそういえば脇の男キャラについて延々書いてたら1記事になってしまったんだわ。

主人公でもない男キャラだけで1記事できてしまうのは、逆説的に良いラブコメだと思う。我ながらだいぶ気に入ってるんだなぁこの作品。かぐや様以来か……。かぐや様は割と万人が納得するような作品だけれど、本作についてはただただ刺さったって感じではある。

本作は細かいギャグでかぐや様と同じ小ネタがけっこうあったりするので、多分なんかそのへんのセンスが近いんじゃないかなぁと思う。塁の思考回路がけっこうかぐや様の会長と一緒だし。具体的には、美明のなんでも言うこと聞くネタで本当に自由にしたら友情崩壊リスクがあるとか深読みして自縄自縛に陥るあたりは完全に一致。頭がいい故に深読みしてしまうんだねぇ。そういやラブコメで主人公頭いい設定も割と珍しい気はする。

ということで「メスの王子様と愉快なメスたち」はまた次回。年またぎそう。

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コメント

コメント一覧 (6件)

  • 更新お疲れさまです。犀川君は良いキャラですよねえ…。言われてみるとラブコメの男キャラとしては結構珍しいキャラ付けなんですかね?彼は他人の恋愛にフォーカスしきっているので自分の事になると鈍感系キャラに化けるっていうのも面白いですね。

    この後もおもしれー男増えますからね…まだまだ手札残ってそうですよこの漫画は。

    僕はギャルゲープレイ経験無いんですが、概念としては理解できるので、文化というかミームとしては一般に結構広く残ってるんじゃないですかねえ。

    • 犀川くんに限らずですが、各キャラがちゃんと役を担っているところが丁寧だなぁと思います。
      単純なキャラ付けを超えて関係性の中で活きているところが良いですね。
      ギャルゲーはブルマと同じくらい教養なのではないでしょうか笑

  • 年末の更新お疲れ様です。

    ところで今の若者はギャルゲって言われて分かるのかちょっと気になりました(笑)。

    • どうなんでしょうね。本作は読者にけっこう教養を求めているので、ついてこれない奴は置いていくスタイルなのかもしれません。
      ただプレイしたことはなくとも、言葉くらいはわかるんじゃないでしょうか。オタク文化に与えた影響は強いですし、文化としては今も残っていると思います。
      私自身も実はギャルゲは数本程度しかプレイしてないんですよ。僅かなプレイ体験と、様々なところで擦られてきているのでわかる気がする、って感じなんですよねー。

      8年前の作品ですが、当サイトではこんな作品を取り上げております。

      『我らひとしく(あらぶる)ギャルゲヒロイン』感想:ギャルゲーと野郎向けラブコメ漫画 | 少年は少女に出会う
      https://rb-m-gl.com/galgame-heroine/

      僕がギャルゲー方向にいかなかったのは、本質的に違ったからなのかなぁとも思います。

      • あ~確かにアニメやラノベでギャルゲがモチーフになったり、話で出てくるのは結構ありますね!でも実際プレイしてるのは主に30代以上だと思います。
        ただ、ソシャゲを現代のギャルゲと考えると、寧ろギャルゲ全盛より遥かに多くの人が触れていることになりますね。

        ギャルゲがサブカルチャーのメインストリームだった時代もありましたけれど、ギャルゲをプレイする自分からみても、人を選ぶ趣味だと感じます。参入のハードルも高いですし。

        • そうですね、20代でギャルゲプレイしたと言われたら、勉強熱心だなぁと感心してしまいそうです。
          30代の感覚でいえば、PC88ゲームプレイしたというような感じと思われますし。

          ギャルゲは物理的・経済的・精神的に色々な意味で敷居高かったですね。
          それにも関わらずコア層への訴求力が強かったのか、名前は残らなくても文化として引き継がれているように思います。

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