『大上さん、だだ漏れです。』1巻感想:言ってはいけない言葉、言えばよかった言葉

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管理人にオススメする」よりオススメされたんだが、「あ、これたしか積んでた気がする」と思って本棚(電子)見てみたら、果たして積んでいた。ちょっと前にオススメされた漫画を見直しますなんて言ったし、読むかー、と年単位で積まれた本書を手に取った。

表紙の印象とはだいぶ異なっており、大上さん(女子)は確かにだだ漏れなんだが、だだ漏れの原因が男子の柳沼くんのほうであった。学校という閉鎖的で狭い世界の中で繰り広げられる思春期の生々しい感情が出ており、それがうまく描かれているため、ラブコメの中でも青春漫画という感じがする。もちろんラブはあるしラブコメ枠なのはそう。

以下1巻感想。

目次

思春期漫画

設定としては、キレイめなイケメン柳沼くんに触れると、今その瞬間に思っていることを口走ってしまうというもの。超能力の一種と思うが、その何故を深掘りする意味はなく、これはそういうものだと受け入れる系。この手の漫画は能力者が他にもポコポコ出てくるのかどうかが一つの大きな分岐点だが、いまのところはそれはなさそう。

タイトルを拾えば、柳沼くんに触れてエロいことばかり考えているエロ大魔王・大上さんの心のうちがだだ漏れという話になる。これだけ書くと愉快なラブコメっぽいし、まぁラブコメ成分は強いんだけれど、本作で一番強い成分は思春期成分となっている。本サイトで取り上げた作品でいえばゴトウユキコのR-中学生を思い出したりした。

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ラブコメ分が薄く、作品としては異なるタイプなので、本作を気に入った人が気に入る漫画かと言えば疑問ではあるが、本質的なところで近さをなんとなしに感じた。

思春期ですから

本作の特徴はなんといっても柳沼くんに触れると思っていることが口に出てしまうという点であり、そこを起点にして人間模様が展開されていく。中心になるのはもちろん表題にもなっているヒロイン・大上さんで、性に対して興味津々な彼女は、柳沼くんに触れるたびに「ちんこ見せて」「いい匂い」と昭和のセクハラ親父でも言わないことをのたまってしまうのである。第二次性徴のさなかで煩悩にまみれた高校生とはいえ、いくらなんでも「ちんこ見せて」は年相応とは言い難いところがあり、彼女の性に対する関心は人よりも相当強いと言える。

一方でそれは純粋に性的な関心かというと違うだろう。たとえば彼女は好んでエロ本を読んでいるわけではなく、性器の断面図を真面目に見ていたり、またアートに昇華させる力があったりなど、どちらかというとアーティスティックな感性でもって、自分とは違う異性の体に対して強い関心を抱いている、というべきだろう。

しかしそのような機微が十代の猿共にわかるはずはない。そういった関心はエロの一言で済まされてしまう。まぁ実際、そういう意味での関心もゼロではなかろう、というか多分平均よりも若干強めと思われるところも厄介である。

これは思春期においては一大問題なのだが、どちらかというと男子の問題として描かれることが多いように思う。古い作品だと女性の衣装に強い関心を持っていた「ローゼンメイデン」の桜田ジュンなどがそうだろうし(彼は学校で自身のデッサンを不本意な形で公開されヒキコモリになっている)、最近(?)だと「その着せ替え人形は恋をする」の人形趣味主人公・新菜もそうだろう。

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閑話休題。

大上さんもご多分に漏れずこの思春期の大問題に直面することになる。中学時代に一般的には異常とも見られる異性への関心がバレ、それに対して自ら「エロ大魔王」という道化を演じることで「いじめ」から逃れようとした。それ自体は功を奏したのだが、成り行きでその感性を見事にまで作品として昇華させたところ、それがクラスメートから変態女として卑下されているところを目撃してしまい、全部勘違いだったんだと嘆き、また友人までが変態扱いされるのをフォローすることもできなかった自分に嫌気がさして不登校化という、ラブコメとしては重たい過去が明かされるのであった。

ただその後大上さんは無事高校で復活するし、また文化祭ではきちんと過去を乗り越えて再び絵を描いているので、これがテーマというわけではない。まぁ実際、作中の描写見てもわかるとおり、大上さんのことを心配している子はいるし(というか不登校という行動まで出たんだからそれなりの知能がある子は察する)、男子にしてもほとんど軽口で大した意味は無かったであろう。とはいえ、大上さんにとってはトラウマとしてまだ燻っているとは思われる。

言葉は心の上っ面

大上さんを追い詰めた男子たちの言葉は心ないものではあったが、それが彼らの大上さんに対する評価と本当に言えるかというと、それはそうとも言い切れない。恐らく何も考えていないというほうが正確だろう。ただ猿なので人の気持ちがわからないだけだ。

同じように、映画館で大上と柳沼のバカップル仕草を見せつけられたリーマンが柳沼くんに触れて「ウザっ」と言ってしまうのも、確かにその時「ウザい」と思ったことは事実だろうが、では目の前のバカップルに対して憎しみがあるかと言われればそれはNOであろう。

宇崎のパンツが見たいマンが「パンツ見えねーだろ」と小学生レベルのボケをかましたのも、宇崎のパンツ見えねぇというのは確かにその瞬間の彼の本音ではあっただろうが、彼の宇崎への想いとしてはごく一側面である。

つまり、柳沼くんに触れて思わず吐いてしまう言葉は、確かに紛れもない彼らの本音なのだけれど、その瞬間のものでしかなく、必ずしもその人の心のあり方を詳らかをするものではない。彼らが本音を言わないのは、言ってはいけないと思っているからで、その抑制するところもまた、心の一部には違いないのだ

つまり、言葉は心の表面に過ぎず、必ずしも心の奥底から出た深いものではない。だからこそ言ってはいけないことは言わずに済むのである。それを言わせてしまう柳沼くんの能力は、確かに多くの人にとって決まりの悪い想いをさせるだろうし、場合によっては社会的な立場がなくなってしまう可能性もあるので、恐ろしい力なのは確か。

心から出た言葉もある

一方で、本当に奥深いところから出た言葉もある。「一生友達じゃあ」は間違いなく心そのものであったろうし、また本作真の変態であるパンツみたいマンの「宇崎のことが好き」もその一つだろう。こういう事は、言ってはいけないから言わないのではなく、受け止めてもらえないことが怖いので言わないのである。好意を受け止めてもらえないことは、悪意をぶつけられるよりもつらいものだ。

でも、そういうことは言った方がいいんだ。たとえ受け止めてもらえなかったとしても。こういう時、大上くんの力はプラスに働くこともある

人の心は奥深い。言葉一つで表せるものではないが、言葉一つでわかる時もある。だから我々は悩む。だだ漏れになった言葉が何を意味しているかは、決して明らかではない。明らかではないが、大上さんの「ちんこ見せて」は心の底から出てます。それが本作をラブコメたらしめているところです。

2巻読みます。

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