『お従兄さんの引っ越しの片づけが進まない』4巻感想:ギャグとシリアスの狭間で

吉辺あくろ, お従兄さんの引っ越しの片づけが進まない 4, 2019

相変わらず高帆が変態可愛い漫画なのだが(しかしこの胸でJCは夢と浪漫に溢れているな…)、ギャグと見せかけて割と微妙なところをついていくるというか、シリアスの顔をちょいちょい覗かせてくる。この漫画の一番の特徴は、ギャグ的な空気からシリアス的な空気に突然変わる様じゃなかろうか、なんて思う。

面白い反面、ギャグとシリアスは相容れないところもあるので、ちょっと違和感を感じたりもする。そして違和感を埋める役割をしているのがまさかの藤嗣。藤嗣は変態面しているけれど、実は成叶に次ぐ常識人かもしれんね。一番の変態はまぁ問題なく高帆だろう。以下4巻感想。

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百合男子とはまた

百合男子とは、また難しいキャラを打ち込んできたなぁ。見たこと無いわけではなくて、それなりに既視感はあるのだが、ちゃんと思い出せるのは姉ログの百合教師くらいだ。百合男子をテーマにした漫画はあったと思うが、それ自体逆説的に「珍しいからこそ」テーマにできたのだとも思うし。まぁレアキャラには違いない。

腐女子キャラはそこそこいることを考えると、やっぱり描き方が難しいのかなと思う。野郎向けのラブコメにおいては、BLはギャグとして描きやすいけれど、GLはちょっとやらしくなっちゃうものなぁ。ギャグっていうかエロじゃね、っていうさ。まぁエロは言い過ぎにしても、単にサービスシーンだよねそれ、みたいなね。ソフトエロ系ならそれもよいが、そうでないならラブコメとしてもギャグとしても雑味になりやすい。

実際、今回の高帆と幟のシーンもなんかそんな感じになってしまったし。高帆と幟がキスしそうになるあのシーンは、ギャグかサービスかで言えば後者に当たるだろう。まぁ自分みたいに百合っ気ゼロの人間にとってはサービスにもならないのだが、世間一般的には、野郎向けラブコメにおける女子同士の濃厚な絡みはサービスシーンに分類されるらしいじゃないか。

ギャグからシリアスへの相転移

で、さすがにそれはアカンでしょ、と藤嗣が止めに入るわけだが、ここの描写は個人的に面白いと思った

キスはラブコメにおいて一つ象徴的なものだから、よほどギャグまたはエロコメに振り切ったものでない限り、ヒロインに軽々しくさせてよいものではないので、ここでのキス阻止自体は当たり前のことだとしても、その止め方は高帆が寸前で正気に戻るでもよかったし、何か驚くような出来事が都合よく起きてそれどころではなくなる、という漫画らしいやり方でもよかっただろう。

が、そこを藤嗣に「落ち着け」と真面目に諭されて止める、というのは別に面白くもなんともなく、少なくともギャグ漫画らしからぬ「普通の」展開である。

実際、藤嗣が止めた後、場の空気は一変して、昂は最初こそ「藤嗣ー!せっかくの二人の仲が…」なんて言いかけたものの、矢継ぎ早に藤嗣から「昂 今日は解散ということにしよう」と畳み掛けられ、さらにたまの兄妹水入らずを薦められると、さすがに察して「ん…それもそうだな」とすっかり落ち着く。

ギャグ的に見ればシラけた空気だ。つまり、ギャグではないってことだ。この藤嗣が止めに入るシーンはギャグではなく、突如としてラブコメ、それもけっこうコメ抜きのシーンだったわけだ。

ギャグとシリアスがせめぎ合っているように見えて、この空気の変わり方は面白いと思う。この漫画はちょくちょくとそういう劇的な転換がさらっとなされていることが多い。

ギャグではよくても

ただ、難しくもあると思う。ギャグでは許されてもシリアスでは許されないことはよくあるので、このボーダーラインをせめると、キャラクターの行動に違和感を感じてしまうこともある。

たとえば、シリアス的な見方をすると昂の乗せ方はノリとはいえさすがにやり過ぎで、妹と妹の友達にキスを煽るなんてのは笑えるものではない。同じようなことは美扇関連でもあって、本巻で言えば高帆のエロ写メを昂にノリで送りつけるのも、これはちょっとNGじゃないのだろうか、なんて思ったりもする。高帆があまり嫌がっていないとはいえ、判断の覚束ない中学生相手にやってよいことではないだろう。

いや、これだって最後までギャグのノリを貫いていればまた印象が変わったはずなのだが、実際にはよりにもよって家族ラインに送ってしまい、ギャグから一転、ガチ目の不穏な空気が流れる、ということになってしまうわけだ。

で、これの解決方法もギャグ的なものではなく、美扇が真面目にフォローのメッセージを投げるという、非常にシリアス的な、というかまともなものであった。つまり、エロ写メ誤送信回も、ギャグ的な空気から突如としてシリアス的な空気に転換したわけだが、そうするとギャグだから許された行動がシリアス的な空気の中で「これダメじゃね?」という印象を読者に与える……まぁ少なくとも俺は違和感を感じた

まー、俺は歳食ったのもあるし、自分で言うのも何だが根が真面目なので(いやホントにワタクシ真面目でございますいやホント)、こういうかたっ苦しいことを思ってしまうのかもしれない。

なんと藤嗣がバランサー

俺の感性と本作で一番近いのは、多分藤嗣。藤嗣は普段の言動こそアレだけれど、昂相手にも美扇相手にもやり過ぎラインについてはキッチリと止めに入る。成叶相手には多少やり過ぎなところあるものの、本当に嫌がることはしない……あ、(多分好きな)女子が絡んだ時にはさすがにキレていたか……。ただまぁ、限度は弁えている。

いやもちろん、美扇や昂も弁えているのだが、前述のようなことがあるので、ギャグ空間ならいざ知らずシリアス入ったラブコメ空間ではちょっとデリカシーがないところがあるな、とも思ってしまうのだ。

まぁその分、全体的には藤嗣がフォローして嫌な感じにならないようになっている。作中では変態扱いの藤嗣が、作品的にはバランサーになっているという不思議な事に。深読みすると、藤嗣が高帆に対してそれなりに思うところがあるからこそ高帆を守る行動に出る、結果的にバランサーになっている……という見方も出来るのだが、今の所藤嗣からは家族的な親愛の情しか感じられないんだよなぁ。ラブコメ的には告白(少なくとも高帆はそう認識している)までしているものの、どうなることやら。

ラブコメ的な進展は微妙なところだ。5巻も楽しみに待つことにする。

……ところで、今どきの子は社会の窓という言い回しを知らないのだろうか。まぁ確かに、いまさら使う言葉ではないが。しかしなるほど、物語書く人は気をつけないと、イマドキの十代にオッサン世代の死語を言わせてしまう危険性があるのだな。いやどうでもいいんだけれど。歳取ったなぁ俺も。

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