『そこにいたの西山さん』全2巻感想:憧れと好きの違いを

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U-temo, そこにいたの西山さん 1

これは中々マニアックなラブコメ。普通のラブコメならモブになりそうな主人公とヒロインの青春。

ラブコメでは、主人公ないしヒロインの気を引くために共闘する二人、という組み合わせがある。作中の当人たちの思惑とは別に、読者的にはその共闘する様がたいへん好ましく、人気CPになったりする。

本作はそういう二人に焦点を当てたような作品だ。憧れと恋は違うよね、とわかりやすくテーマ的でもある。同じ憧れの人目当てだって二人なのに、いつの間にか二人でいることが大事になっていた過程が丁寧に描かれる。ありそうでない作品だと思う。

以下全2巻感想。

目次

共闘系男女ストーリー

憧れの女子と隣の席になり、毎日話しかけるタイミングを伺っていたがヘタレ故にできず、なぜか隣のキラキラ女子のさらに隣の、存在感の無いモブ系女子と仲良くなってしまう漫画。

憧れの女子は、同性から見ても眩しい存在だったようで、隣の隣の日陰女子もまた、その子に憧憬の念を抱いていたのだ。憧れの人が同じ、という共通項をもって二人は協力しあい、憧れのあの子とお近づきになろうとするが……。

憧れと好きの距離感

まぁ大方の予想通り、憧れのあの子とは特に仲良くならず、むしろ共闘を経て二人がどんどん仲良くなっていく。その過程がたいへん楽しい。特に主人公にとって憧れの子は異性なので、その感情は当初恋愛感情として捉えられていたが、だんだんと主人公自身がその感情に違和感を感じ始めるのが良い。

異性としてであろうと同性としてであろうと、"憧れ"は本質的に同質なのかもしれない。まぁ異性としての憧れならば、やがてそれが恋愛に発展することもあるだろうけれど、おそらくそうなる時、もはやその人に抱く感情は"憧れ"ではなくもっと身近な親近感になっているだろうと思う。

この憧れと好きの距離感の違いは、誰しもその人生の中でなんとなく経験しているのではないかと思われ、本作は多くの人にとって非常に共感的なラブコメ作品に思える。が、ラブコメとしては珍しい部類に入るだろう。

そりゃまぁ、ラブコメは浪漫を描くジャンルなので、現実的で身近な恋よりかは、憧れのあの人と!という夢いっぱいの関係を描いたもののほうがどうしたって多くなるのは自明の理。

実際、この作品は地味。ほんとに。特に最初のほうなんて、主人公・ヒロイン二人して憧れのスーパーヒロインの周りをちょろちょろしているだけで、その様は在りし日の自分を見ているようでなんとも情けない。憧れのあの子には一向にお近づきになれない。

憧れは共通の話題に成り下がる

が、二人の距離は縮まっていく。憧れのあの子を追いかける時間は楽しく、また互いに気持ちがわかるだけに、相手のことを思いやれて、それがまた嬉しい。やがて、憧れのあの子を二人で追いかけることそのものが目的化していく。もはや、憧れのあの子は二人でいるための理由でしかない。同じアイドルを追っかけて仲良くなったファン二人、みたいな。

特に主人公の感情の動きは激しい。憧れのあの子といい感じの空気になれても、その子がいつも一緒に追いかけている西山さんのことを認識していないとわかると、声を荒げて激昂する。

まぁ同性でしかも隣の席の子のことを把握していないのは、ちょっとよろしくないよなぁ。だからといって怒るのは筋違いだとは思うけれど、まぁ主人公にとってそれだけ西山さんの存在が大きくなっていた、ということでもある。

青春ですわ

というか、この主人公は中々の青春野郎で、自分だけが西山さんを見つけることができる、と思っていたのに、みんなが西山さんのことを認識しだすと、嫉妬に捕らわれて、西山さんが皆と仲良くするのを邪魔したりする。かと思えば、自分が嫌なことをしていることに気づいて懊悩したりする。青春である。

主人公のこの心の動きには、イライラさせられるところありつつ、正直言うと共感できるところもあるのではなかろうか。主人公の嫌な態度は、恋していることの証明でもある。

ステルス女子が日向に出るまで

ところで、わかりやすい恋愛的な展開とは別に、本作は影の薄い西山さんが、最終的に皆に認められるようになる、という恋愛とは別のストーリーがある。これはもちろん百合ヶ丘との交流を通じて起きたことなのだが、これはいったいどういうことなんだろう、と思うと、色々な解釈ができる気がする。

個人的な解釈では、一方的でストーカーチックに憧れの人を追い回すのではなく、身近な一人の人間として百合ヶ丘と接することで、西山さんは外に目を向けられるようになった。外に目を向けたので、また外からも目を向けられるようになった……という感じかなぁ、と思っている。

恋愛だけではないのが良いラブコメ。全2巻と短いながら、ラブコメのしっとりしたところを描いた良作でした。

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