↑年頃の男女が「日課」と称して行う毎日の儀式、その始まり。彼女が指につけた自分の涎を彼氏にくわえて舐めさせるという、フェチズム極まった描写。この1コマで「くる」人は「くる」はずで、そういう人のためのラブコメ。今まで読んだ中で、一番衝撃を受けたラブコメを一話挙げろと言われたら、俺はこの謎の彼女Xの第0話を推したい。
基本情報
全12巻。アフタヌーンで連載していた。ぽい感じ。作者はディスコミュニケーションや夢使いの植芝理一で、これまた濃いファンをたくさん抱えてらっしゃる人。ディスコミは持ってるんだけど長らく積読状態で、結局俺は本作でしかこの人を知らないんよな…。昔ちょろっと読んでさくらももこみたいだなーって印象抱いたことだけは覚えてるんだけど…。あー学生時代に読んでおくべきだった…いや本作は学生時代に読み始めたんだけれど。学生時代に出会えてよかった。
だいたいこんな感じ
普通の男子高校生である椿明と、なにもかもが謎の彼女こと卜部美琴の恋愛劇場。恋のパターンも色々あるが、この二人の場合、特に理由もないほとんど運命的な一目惚れに近い。理由のない恋ほどワクワクするラブコメはないが、それにしてもこの卜部美琴、転校生なのだが、転校初日から女子の誘いを全部断る、無口で物静かかとおもいきや、教室で突然ゲラゲラ笑い出す(理由は明かされる)、その後もほとんど人との交流を拒み続け、変な奴として敬遠されていたような女子。そんな彼女が放課後教室で居眠りを続けているのを、椿を起こすのだが…。
↑涎垂れ過ぎ。この1コマから作者の変態性が放射されまくっててすごくいい。そして、卜部は特に机も拭かずに出て行った。普通ならうぇ、って感じの出来事だけれど、椿はこの涎に引くこともなく、それどころか、顔を上げて涎垂らしながら上目遣いで「何…?」と問いかける卜部を見てドキッとしたうえ、机の上に残った涎を舐めるという暴挙に出る↓。
なにこの思春期真っ只中。あまいってなんや。まるで蜜に吸い寄せられる虫がごとく、他人の涎(しかも排出後)という忌避すべきものを、ごく本能的に舐め、そして「あまい」と感じるこの設定。いくら好きな人のだってこんなのごめんだわって人は多かろう、というか大多数の人はそうだろう。だが椿明は違うらしい。極普通の男子なのだが。もちろん変態的なんだが同時にプラトニックさも感じられて、ああ童貞を極めているなぁ思う。関係ないけどこのシーンの椿可愛いな。
この後、二人はなんやかんやあって付き合うことになる。涎が何故甘く感じるのかとか、そういうことに対する理由の追求は一切されない。それはそういうものだから。二人は恋することを運命に定められたかのように、どういうわけか引き寄せられた。特にそこに理由みたいなものはない。せいぜい、椿からしたときに、前髪よけたら素顔けっこう可愛かった、くらいなもんだ。思春期の男の子が恋をするには、十分な理由かもしれないが。
でもそれだけで、涎を舐めたいと思うもんだろうか。そこに至るまでのロマンスもない。どちらかというと、恋することが決まってから、二人は相手のことを知ろうとするし、この人と一緒にいたいと思う理由を探すようにもなる。原因があって結果がある、というのを論理的であるとするならば、それがまるっきりあべこべで、結果があって原因があるとでも言うべき状態。しかしなんというか、この意味不明さこそ正しいんじゃなかろうか、それだからこそ美しいんじゃなかろうか、と思わせるパワーがある。
ところで、日本以外の、特に合理的な大陸の人、ザ・アメリカンみたいな人には理解できなそうだなぁとも思う。とにかく理由という理由がないし、理由なんてあったら野暮やん?くらいのノリだから、合理的であることを是とする彼らにこの漫画はどう映るのだろうか。しかし、恋愛感情なんてのは理性的に理解できるものでもなかろうし、わからないものをありのままわからないものとして表現する本作は、なかなかどうして正鵠を射ているように思えてならぬ。
さて、そんなまさに謎の彼女卜部美琴も、回を重ねるに連れてどんどん普通の彼女になっていくのはご愛嬌。マンネリズム。しかし、マンネリ化してもフェチぶりが滲み出ていて、ああこの作者は本当に変態なんだろうなぁ…としみじみ。涎を媒介にして、この二人は絆を深めていく。
総評
ラブコメの上澄みであり極致であると思う。
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