『僕らはみんな河合荘』11巻(最終巻)感想:エンディングの幸福感と喪失感

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作・宮原るり。2018年全11巻完結。……完結。1巻が2011年だから八年か……お疲れ様でした。

手だけうつった10巻から、ついに全身表紙に出た宇佐くん。最後はきっとそうなると思っていた人も多かったはず。感無量やわ。見ているとこう……やるせなくなる。

いや、完全無欠のハッピーエンドなんだけれど。幸福感あるのだけれど。同時に、喪失感がある。この気分は、昔遊んでいたRPGのエンディングを見た時の気分に近い。もうこの物語の先は見られないんだなぁっていう。

以下、最終巻および全11巻の感想。

目次

ハッピーエンドがつらい

終わってしまった。最後はもちろん、もちろん宇佐くんと律ちゃんがお付き合いする。というか、大学卒業して就職したところまで描かれる。次世代にまではいかなかったが、約束された未来が見える……。

これはもう、文句のつけようのないハッピーエンドだ。無理やりつけるとすれば「キスシーンくらい描いてよ!」ってくらいか。あ、これ重大な文句の気がする。だが物語は幸福に満ちている。そして俺はその幸せオーラに当てられて、どこか物悲しい気分になった。一つの物語の終わりを、否応なく感じてしまったからだよ。

1巻が出たのが2011年、最終巻である11巻が2018年。自分がこの漫画を読み始めたのはいつだったか覚えてないけれど、たしか4巻か5巻が出たくらいだった気がする。きっかけは忘れたけれど、なんとなしに1巻を読んでみたら、これがどストライクのラブコメだったもので、一気に最新巻まで購入した記憶がある(その勢いで恋愛ラボやみそララにも手を出し…ネネコさんは未読)。

それ以来、この作品は俺にとって読み終わるのがつらい漫画であり続けた。読んでいる間の幸福感が大きいほど、「ああもう読み終わってしまう」という気分も大きかった。そう思える漫画は、あまりないものだ。

それでも、これまでは「次巻はいつかなー。どんなかなー」という楽しみもあった。しかし、今回はそれもない。そりゃそうだ。最終巻だからね。次、なんてないんだよ。

なので、どこまでも幸福な物語とは裏腹に、俺は寂しさを感じないわけにはいかなかった。宇佐律だけでなく、シロと麻弓さん(!)や、そのほか登場人物たちの歩む眩しい姿は、俺にとってもハッピーだ。それは確かだ。でもそれ以上に寂しいんだ。皆の成長が嬉しくも寂しい。

11巻最後、ほんの少しだけ描かれた宇佐と律は、もうすっかり大人としての雰囲気を纏っていた。それは後ろ姿の佇まいからだけで感じ取れるほどに。もう律ちゃんなんて呼べないね。呼ぶけど。この二人は、青春の大きな大きな山場を超えたんだなぁ。だから、この物語はここでおしまい。

河合荘という舞台で

一つの物語が終わっても、もちろん人生は続く。二人はこれからも色々な問題に立ち向かうことになるだろう。ってか、人生という視点で見ると、むしろ本番はこれから。だからこそ、河合荘にはそこそこの年齢のみなさんが集まっていたわけだし。表題の河合荘という舞台を主軸に考えると、主人公はむしろシロさんと麻弓さんだったかもしれないとさえ思う。

実際、この物語を味わい深くしていたのは、シロさんと麻弓さんだった。宇佐律のラブコメってだけじゃ、ここまで面白くはならなかったろうな。それに、彼らのいる河合荘だからこそ、宇佐くんと律ちゃんはうまくいったように思う。

特に宇佐くんにとって、麻弓さんの存在は相当大きかったはず。麻弓さんが宇佐くんに発破かけるクソ童貞シーンは、この漫画で一番の名シーンだったと思う。宇佐くんがかっこつけずに律ちゃんと真摯に向き合えたのは、年甲斐もなく同じ土俵で痛々しくも相撲を取り続けていた麻弓さんのお陰と言っても過言ではあるまい。

まぁ麻弓さんもちゃんとシロさんと結ばれたことがほのめかされていてよかったよかった(刺激物…笑)。カバー裏の「シロさんと俺と麻弓さん」でもだえた人は多かろう(あれを完にしなかったのはやはり照れだろうか?笑)。いやほんとよかったよ。やはり裏主人公……。まぁでも、物語としてはどうしたって宇佐律の輝かしいボーイ・ミーツ・ガールが眩しすぎるので…。それはもう、当の宇佐律にさえも再現不能の究極の光。

大人になったのね

宇佐律の二人にもまだまだ色々な物語があるだろうけれど、在りし日の二人を超えるドラマチックさはなさそうだしね(っていうかあってほしくないような気もする)。それというのも、河合荘という人間交差点で揉まれたからか、学校を出た宇佐律の二人は非常にしっかりしているらしいことが、巻末のたった2ページの姿から伺えるので。決して共依存的な関係ではなく、自分の足で立ったうえで、相手を思いやるという、たいへん素晴らしい信頼関係と愛情の絆で結ばれていそうだ。理想的な夫婦かよ。この二人が河合荘のお世話になることはなさそう(一時的に、みたいなことはあるかもしれないけれど)。

まぁそういう感じだから、やっぱり河合荘の物語は、無事完結したということなんだろう。ああ寂しい。なんかおまけでもまた描いてくれないかなぁ。どうせ情けない初キスしたんだろうけどそのへん知りたいよなぁ。ってかほんとキスシーンはほしかったなぁ。あと律ちゃんが宇佐くんの呼称を変える話は読んでみたいなぁ。自分のことは下の名前で呼ばせておいて、宇佐くんは宇佐くんのままだけれど、結婚後も宇佐くんってことはあるまいし。おお、結婚……結婚の話もいいなぁ。ってか作者さん、年齢を描くのうまいよなぁ。二人とも大人になったんだなー……。

良い物語だった。今感じているこの寂しさも、そのうちにきっと薄れて、楽しい漫画だったなって思い出だけが残るんだろうと思う。そういう漫画だった。

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