こっちの方向にいってしまったか……。やっぱりラブコメのマンネリ化あるいは方向転換って、難しいんだなぁと思うばかりだ。
前半戦は藤原書紀との関係について区切りをつけるもので、これは面白かった。で、これが節目になって次の展開に行くのだけれど、それが石上と伊井野周りなんだよね。そっちにシフトしちゃったか……という気持ちは正直すごくある。
これまでもこの二人の話が長引くとしんどいなぁと思わせられていたのだが、それでも会長とかぐやがメインということには変わりなく、それが基盤になっていたのでまぁ……という感じだったのだが、今はもう会長・かぐやが出来上がってしまっているだけに、うーん。
うーん……このままいくと、変にどシリアス突っ込んで笑っちゃうゾーン超えちゃう気がする……。真面目な話、ここから物語的に空までぶっ飛んじゃうのか、地に足をつけられるかは、会長の立ち回り次第の気がする。以下23巻感想。
夢のあとさき
本巻を読んで強く思ったのは、本作においてはやはり、まず四宮かぐやというヒロインの存在があるんだなと思った。ただかぐやそれ自体は、そのままだと月まで飛んでいくタイプで、非常に扱いが難しい。一昔前……いやもしかしたら今でも?そういう油断したら消えたりいなくなったりしそうな、非現実的というかな、儚いというかな、それとも、夢を少女の形に具現化した、とでも言えば多少しっくりくるだろうか、そういうヒロインはけっこういたが、やはり作品として最後フワフワしたまま終わってしまうものが多い気がする。
浪漫はいいものだ。目が覚めれば何があったかのすべてを忘れながら、ああ面白い夢だったと、そんな心地だけを残してくれる。四宮かぐやはそんな夢の一つの形だった。
しかし、本作は単なる夢で終わらない不思議な生々しさがあって、読んでいる時はバカバカしいラブコメを楽しみ、さらに読み終わった後も彼らの一挙一投足を思い返して、なんとなしに考えさせられる、そういう作品だった。
夢を単なる夢と思わせない質感があった。夢に質感を与える何かを、現実感とかリアリティとか、そういう風に呼ぶのかもしれない。
白銀御行と四宮かぐやが揃ったからこそ
もしそんなものがあったとしたら、その発信源は間違いなく会長こと白銀御行という、もうひとりの主人公である。夢の具象少女・四宮かぐやを泥臭い大地に引きずりおろした白銀御行がいたから、本作は地に足のつそれでいながら月の光のような煌めきをもった稀有なラブコメになったのだと思うし、そんな本作を、ここ数年でダントツで一番のラブコメだなぁと、そんな風に俺は思っていた。
それだけに、晴れてくっついた後の二人の関係をどう描かれるのかは、楽しみ半分不安半分といったところだった。確かに以前の直視できないようなラブコメの眩い光ほどではないものの、見ていてついニヤニヤとしてしまう、楽しいラブコメ空間は維持されており、まぁなんだかんだと楽しませてもらった。
本巻の藤原書紀の話は、そんな楽しいラブコメ空間に、最後の区切りをつけた話だっただろう。さらっと彼女自身の過去話も織り交ぜながら、かぐやを祝福し、会長を認め、二人を言祝ぐ様からは、御行とかぐや二人の関係に広がりを感じさせた。ラブコメ浪漫では恋人関係って閉鎖的になりがちだし、実際そういう面は少なからずあるんだけれど、ちゃんと世界との繋がりもあるのだと思わせてくれる。そんなところも、夢に質感をもたせる一因になっているだろうな。
ミコちゃん劇場始まった……が
ということで、まぁ例によって絶賛に近い称賛をしてしまったわけだが、この続きを読むと、ちょっとばかり「う……」となってしまった。
会長・かぐやの恋人関係に一区切りついたあとは、四宮家お家騒動がいよいよ始まるのかと思っていたんだが、今度は裏主人公たる石上と伊井野周りにスポットライトが当てられる。
というか、伊井野だね。ほとんど、伊井野。
……マジかー……。
いや……まぁ、面白いとは思っているというか、ああさすが作者さんだなって、そういう気持ちもあるんだけどさ。伊井野面白いよね。特に今回、リミッター外してからのミコちゃんは中々だよ。ラブコメ的にめっちゃいいと思う。
いいと思うんだけど……なんだけどね、なんかこう、ib -インスタントバレット-とか思い出しちゃったりもしてね、いやこれやりすぎるでしょ、みたいな。ふわふわ飛んでっちゃって、なんか笑えてくるやつになっちゃうでしょみたいな。
ヒロインに焦点を当てると、どうしても仕方ない面もあるんだと思う。特に伊井野ミコみたいなヒロインは、四宮かぐや以上にラブコメらしい少女だし、まぁふわふわっとしちゃうのは、そうだろうなぁと。で、そのままふわふわして飛んでっちゃうと、なんかね、読んでいる身としては、急激に覚める気持ちもあるというか、「あー、これは作られた話なんだよな」ってそういうシケたことを考えてしまうというか。
変な話だけど、現実に引き戻すような現実感があって初めて、夢の世界を楽しめるっていう面があるんだと思う。「こんなこと言っているけどコイツは今日も元気にウンコしてます」みたいな感覚、大事だと思うんだよね。
白銀御行の功績は、氷のかぐや姫をちゃんとウンコしてるだろう女にしたことだ。まぁそれによってラブコメとしての輝きに多少陰りはあっても、物語として素晴らしいものだと感じられた。
まぁ、夢を夢のまま楽しむには、俺は歳を取りすぎてしまったっていう、それだけのことかもしれないけどね。でもだからこそ、本作は頭2つ3つ抜けた素晴らしい作品だと思っていたので、この展開はちょっと不安がある。石上くんはどっちかっていうと一緒に天まで昇っちゃうタイプに思うんだよなぁ。っていうかタイトル関係ないどころじゃないよね。
ということで、やっぱり相変わらず会長の立ち回り次第なんじゃなかろうかと思うのだが、果たしてどうなるだろうか。会長とかぐやをベースにさえしておけば、多分なんだかんだ落ち着きそうなんだけれど、うーん……。
まぁ本作についてはこれまで散々楽しませもらったので、今後どうなっても最後まで見届けるつもりである。
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