赤坂アカ, ib -インスタントバレット- 5, 2015
一応、本巻で商業としては最終巻なのだが、作者さん的には物語を完結させる気ではないようだ。今回の恥ずかしサブタイは「ハッピーエンドなんか、いらない」。わかりみが深い。
あとがきでもっと売れたらまたやりたい的なことを書いていたが、かぐや様でブレイクした今ならあるいは本当に…?
最終巻はクロとセラのボーイ・ミーツ・ガールvs夢とクロのガール・ミーツ・ボーイです。そして最後に愛は勝つ。最後のシーンはちょっと笑ってしまいました。面白かった。
まぁでも、作者さんは非常に業の深い人だなぁと思った。多感な十代でないと醸成できなかっただろう、この色々な意味で抑制の効いていない本作を今でも続ける気があるのなら、是非続けてもらいたいなぁと思う。読みたい。以下最終巻たる5巻感想。
青春の賜物
あー……これはなんて面白い。可能性の塊だなぁ。中二的で荒削りな世界観でありながら、そこに描かれるのはどこまでも生々しく切実な心情。人が二十代半ばくらいで心の奥底に置いてきた青臭い想いがここにはある。それが世界観とマッチしている。後書きによれば十代の頃から温めていた物語らしいが、なるほど多感な十代だからこそ作ることのできた賜物であると思った。
確かに中二的なんだけどさ、でも忘れていた気持ちを思い出させてくれる作品だと思ったな。クロとセラのぶつかり合いがとても生々しくて、面白くて、考えさせられた。
憎しみに変わったやさしさが、セラの悪さえ包み込む
セラは恐らく、いわゆるサイコパスの特性を相当に持っている。良心の欠如や共感性の欠落を特徴としていて、おまけに反社会性も高い。といっても、頭もいいから、日常においてはそれらしく振る舞っている(こういう人は現実世界でもマジでいる……1-3%いると言われています……ので、関わり合いにならないようお気をつけください)が、その本質はセラの言うように悪としか言いようのないものであり、頭のよいセラはそのことを理解していた。
セラとミーツしたところで、ラブコメには発展しようがない。他者に共感できないサイコパスは、もっともラブコメ適性のない属性の一つだ(サイコパスなヒロインを描いた「『異常者の愛』感想:愛に焦がれたサイコパス – 少年は少女に出会う」などもご参考に)。実際、セラが恋するところはちょっと想像がつかない(一方的に想いを寄せることはあるかもしれない)。
だが、そんなセラとクロのぶつかり合いは、一つのラブ・ロマンスではないかと思わせるものがあった。
ヒーローへの憧れを持ちながら、自身の本質が悪で、自分は自分にしかなれないことを知っているセラは、絶望の中で世界を破壊しようとしていた。そしてそれに対峙するクロは、皆とのふれあいの中で忘れていた、あるいは忘れようと心の奥に押し込んでいたやさしさを見つけ、その希望の中でまた、深い憎しみを覚え、そのやりきれない想いはセラの純粋な悪を超える大きな悪意を生んでいた。
この対決は皮肉である。
実のところ、クロは誰よりも良心と共感性に溢れるやさしい人間だ。それ故に傷つき、人との関係を拒み粗暴に明け暮れるようになる。それは本質的に良心も共感もないが故に、呵責なく自分を偽って振る舞えるセラとは対照的だ。
そんなクロのやさしさが、大きな憎しみに反転する。やさしいからこそ、感受性は高く、その分憎しみも深い。憎しみは大きな悪意に変わる。そしてこの悪意こそ、セラを救うクロの最後のやさしさだった。
ここにきて、初めてセラは涙する。クロとの"関係"に感謝する。自身の本質とは対照的な"正義"と"悪"の役割をもって、わかりあえない二人は繋がり、孤独は消えた。
これは男女の愛とは違うかもしれない。ラブコメのラブではないかもしれない。だが、一つの愛の形に思える。それはとても深く尊いものだ。
ガール・ミーツ・ボーイの大勝利でした
ということで、彼女の逆鱗に触れましたとさ。
なんやねんこれ 笑。いやちょっとマジで不意打ちだったから本当にビックリして、ページめくる手が止まった 笑。
そして、先までのどシリアスはなんだったんだというなんでもありの夢ちゃん大活躍。
なにそれ怖い。こんなタイムトラベラー知らん。セラにヤんでると言われる夢っていったい。
どうやら彼氏が他の彼女とイチャイチャするのを止めるために世界は救われたらしい。そうだよね、わざわざ現代の自分を残してきたんだしね。その子と以外でいい感じになるなんて認められないよね。まして彼女的に他の女と心中とかありえないよね。そのためなら世界も救うよね。もうコイツ一人でいいんじゃないかなっていう万能ぶり。セラの「なんかいろいろ台なしだなぁ……」に共感する読者多数と思われる。
まぁでもいいよ。台なしでいいよ。美しいハッピー(?)エンドよりも台なしな日常のほうが俺はいいよ。この物語はまだ終わらないんだろう?だったらそれでいいじゃないか。
まーつまりアレだ、恋愛ではなかったボーイ・ミーツ・ガールに、きっちり恋愛ラブだったガール・ミーツ・ボーイの大勝利ってことよ。やはり最後に愛は勝つ。
やー、面白かったです。本当に続けるなら有り難く読ませてもらいますけれど、作者さんは今どう考えているんでしょうなー。かぐや様の中で描かれるやさしさ論とか見ると、あんまり変わってなさそうですが。まぁでも今はかぐや様かな。
コメント