作・押切蓮介。2018年9巻。
いつのまにか8巻飛んで9巻まで出ていた…。そして色々な決着が……。
1巻の素敵ボーイ・ミーツ・ガールぶりに感動したクチとしては、正直2巻以降の展開には色々と思う所ないではなかったのだけれど、でもボーイ・ミーツ・ガールの夢を完成させるには、その後を描くしかなかったのか、とも思う。
本作1巻の素敵っぷりはもはや芸術、ボーイ・ミーツ・ガールの標本。その美しさを台無しにするリスクを犯して描かれる、泥沼三角関係修羅場の先にあるものは。以下8,9巻感想。
三角関係の決着
飛ばしていた8巻は、長らく続いた三角関係の決着であった。小春vs晶の決着。ハルオと小春の間については、ゲーム勝負の末「何もなかった」ことが、答えだったということか。
なので、小春とハルオの間は、もう結論が出ていた。まぁハルオはなんだかんだいってずっと晶が好きなんだよな。が、晶はそれでおさまらず。小春も諦めきれず。8巻はむしろ、晶と小春の女の戦いがメイン。
ハルオの知らないところで、晶と小春は女の戦いを因縁のゲームで繰り広げる。とはいえゲーマーとしての腕前は、晶のほうが格上ではあるのだろう。小春も実力差については知っているから、裏コマンドを使って強キャラ・豪鬼を出して戦うのだが、それに対して晶はあくまで持ちキャラ・ザンギエフで迎撃態勢。
俺は格ゲーには明るくないのでよくわからないものの、作中の描写からいくと、いかに晶といえども、格ゲーをやりこんだ小春が非情に徹すれば、勝負の行方はわからなかった、というか、小春に分があったのだろうと思われる。が、小春はあくまで正々堂々の晶の姿勢に臆し、敗北してしまう。
まぁ、小春も一人のゲーマーであったということだ。ハルオのことが好きであるように、ゲームのことも好きだった。だからこそ、晶の姿勢に怯んだのだと言える。そこまでゲームのことを好きになれたからこそ、ハルオのことも好きだったのだろう。
そして、小春は心の底から「私の付け入る"好き"なんて――」と涙を滲ませる。豪鬼vs豪鬼では、そうはならなかったろうな。といっても、晶も最初からこの結末を狙っていたわけではないだろう。はじめに豪鬼を出そうとして、失敗しているが、わざと失敗したわけではなさそうだし。
それは、小春の言うように緊張もあったのだろうけれど、なにかしら心的に引っかかるものもあったんではなかろうか。豪鬼で小春をぶっ飛ばしても、なにか違う。失敗したことで吹っ切れて、思い直したのだと思われる。晶は、ゲーマーとしての小春に賭けた。晶もまた、小春のことを認めていたということやね。まー、認めていなけりゃそもそも勝負なんて吹っかけまいし。
変な話、小春がここでハルオへの好意を優先させるような女なら、ハルオは小春にそこまでの魅力を感じなかったろうし、渋谷の朝帰り事件も起きなかったろう。晶が小春を意識することもなかったろう。いや、そもそも小春自身がハルオのことを好きにならなかったように思える。そう考えると、小春は敗れるべくして敗れたのかもしれない。
もしも晶がいなければ、フツーにハルオとくっついて良きダメ夫婦になっていただろうけどねぇ……。ハルオと小春の関係は、晶がいなくても成り立つものだし。ってか、カップルとしては晶とよりもよほど自然な感じなんだよなぁ。
ボーイ・ミーツ・ガールの決着
ハルオと晶の関係は、幼少期の素敵ボーイ・ミーツ・ガールがベースにある。1巻で描かれたその物語はあまりに美しすぎたので、正直成長して泥々の三角関係にもつれ込む2巻以降は、ボーイ・ミーツ・ガール的観点からいくと「やっちまうのか……」という気分はないでもなかった。再開を匂わせて終わる、くらいが物語としては間違いなく綺麗。
が、現実は綺麗ではない。そりゃ物語は現実ではないでしょってのはそりゃそうなんだが、物語の設定としても、素直に考えると晶とハルオが再開して結ばれる可能性はあまりない。その点には目をつぶり、ただ別れ際の1シーンを切り取ると、ボーイ・ミーツ・ガールの眩しく美しい標本が出来上がる。それはボーイ・ミーツ・ガール好きにとって、彫刻にして鑑賞すべき芸術的美しさだった。
……それで終わらせたくなかったのかなー、なんて思ったりした。綺麗な綺麗なボーイ・ミーツ・ガールの標本ではなく、たとえその美しさに泥を塗りかねないとしても、二人の未来を描きたかったのかなー、とかなんとか。
その未来を具体的に描くと、ご都合主義かもしれないし、設定の嘘くささも際立つかもしれないし、人間関係も泥々してきて美しくないかもしれない。それでも、ボーイ・ミーツ・ガールの夢を完成させることを選んだのか。知らんけどさ。でも、俺もこの先を見たいなぁと思った。
それはそれとして、ハルオと晶がイチャイチャする話はもうちょっと長めにとってくれてもよかった。いや、9巻はほぼ丸々イチャイチャしていたんだけれど。でもきっともうすぐ終わっちゃうんでしょー?あー、なんでもいいけれど、ハッピーエンドでありますように……。
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