『ヒラ役人やって1500年、魔王の力で大臣にされちゃいました(漫画)』1巻感想:理想の上司、それはボーイ・ミーツ・ガールを超えた生々しき夢

ヒラ役人やって1500年、魔王の力で大臣にされちゃいました 1

知らなかったが、「スライム倒して300年〜」のスピンオフで、さらにコミカライズ。ということは原作は人気作だったのか。

我ながら嫌な感じだと思うが、この手の作品を読む時に考えるのは、「この作品には現世のどんな欲望が表出されているんだろう」ということである。

で、最初はヒラから大臣の大抜擢ということで、立身出世かあるいは評価か、などと思ったが、違うねこれ。理想の上司だ。理想の上司が欲しい、を上司目線で描いたやつだ。あまりにも願いが生々しくて泣けてきた。

スライム倒して300年〜は未読、と思っていたが、本棚見直してみたら大昔にコミックス版の1巻読んでたわ。そんな感じで以下1巻感想。

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スピンオフらしい

本作は、「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」のスピンオフ。スピンオフだと知らずに読んだ。なんか、最初のほうで「スライム倒してたらレベルMAXになったようなものですね」みたいなメタ発言があったので、ああそういやそんな作品あったな、ジャンル近いし影響受けているかな、とか思っていたら、巻末のあとがき見て思いっきりスピンオフ作品だったことを知る。なんだったら第一話を読んだことがあるはずだった。完全に記憶から飛んでいた。年取るってやーね。

で、なぜそこまで何も知らずに読んだのかと言えば、Kindle Unlimitedにあったから……ふふふ……。

欲望が生々しい

何も知らないとはいったものの、まぁタイトルからいわゆる「なろう系」であることは察しがついた。原作付きだし。で、俺がこの手の作品を読む時に考えることは、「この作品に描かれている"欲望"は何か?」である。これはもしかするとすごく嫌な読み方なのかもしれないんだが、まぁでも歳を取った漫画読みなんてのはだいたい何かしら捻くれた読み方をしているものだ。

で、読み始めた時は、ヒラからの大抜擢ということで、よくある立身出世だろうかと思った。それも、「本当はSランクなんだけれど力を隠してEランク」的なアレ。「真の実力者には隠している爪を見つけられちゃうんだ、まいっちゃうなもう」的な感じ。そして嫌味な連中もみかえしちゃうんだぜてきな。あの手のはまぁ、「能力主義」「立身出世」「承認欲求」なんかがベースにあるわけだ。

が、読んでいてそれは違うことがわかった。本作の"欲望"は、"理想の上司"、これだわ。ある意味もっとも得難いもの。生々しくて泣きそう。

こんな上司がいた、という夢だったのさ

変わっているのは、主人公であり視点人物が、上司その人であることだろうか。だが、本作は決して上司の成長譚ではない。いや、そういう見方もできるだろうが、本質的ではない。

本作で描かれているのは、「上司はどのようにしてこの困難を乗り切るのか!?」ではない。乗り切ることはわかっている。わかりきっている。そこにカタルシスはない。そうではなくて、「ああ、こんな感じでひたむきにやってくれる人が上にいたら、嬉しくなっちゃうよな」という、そっちのほうだ。「現場をよく知っていて、部下をよく見てくれて、実力があって、頼りがいがあって、でもちょっとほっとけないところもあって、一緒に頑張ってくれる、そんな上司最高だよな」っていう、夢。

本作は例によって可愛い女子しか出てこない系で、浮いた話はない。ただ、ある意味で理想的なボーイ・ミーツ・ガールよりも夢かもしれない。というか、生々しさがあるだけにボーイ・ミーツ・ガールよりも厳しさを感じる。泣きそう。

多分本作をものすごく"夢"っぽく感じさせるのは、スライム倒して〜でも言えるんだけれど、「低レベル雑魚だけ倒して実力がつく」ということが現実ではありえないからだろう。一応、本作では「視野を広くして大臣として相応しく〜」などという話もされていて、これは他の異世界ものなら「ステータス=実力ではない」的な話になるやつだ。実力とは何か、本作でも触れられていないわけではない……が、そこはオマケだな、と感じた。深刻さがないものな。描かれているものを考えれば、そりゃそうだ。

愚直なルーティンの積み重ねも美徳ではあるけれど、その先にリーダーシップがあるわけじゃない。そこをすっ飛ばしているので、ああ、"夢"だなぁと、そんな風に感じてしまうんだろう。

まぁでも、夢を見ることは悪くない。それで明日も頑張れるなら、それが一番だからね。だから俺は明日もラブコメを読……むかなーどうすっかなー、まぁ多分読む、あんまりしんどくなかったら。しんどかったら寝る。

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