『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました(漫画)』1-3巻感想:才能が可視化されるとリーダーが消える

原作・ざっぽん、漫画・池野雅博。2018年1巻。

ブログ泣かせのタイトルクソ長ムーヴはいつ滅するの?という愚痴は置いといて、この漫画(原作はラノベですが)は面白かったですな。

本当は凄いんだけれど力を隠して平民しちゃう系で、俺TUEEEEの香りは残しつつも、表題のとおり挫折からくる平民生活なのでそこまで嫌味になっていない。

この手の設定だと、どうしても大きな才能を持った人間が、その才を自分のためにしか使わないのってどうなの?っていうテーマがでてきちゃうんだけれど、この作品はそれについてもけっこう向き合っていると思う。

表紙は例によって可愛いヒロインだけれど、徹頭徹尾、主人公・レッド(ギデオン)の作品となっております。ラブコメは添え物。世界観はファンタジーだけれど実質異世界もの。

以下漫画版1-3巻感想。他にクーデレ妹ヒロインもいるが、今の所あまり目立ってはいない。あと言うほどスローライフはしてない笑。

目次

才能が可視化された世界

面白かったですわ。転生でも召喚でもない、純ファンタジーなのだけれど、実際には異世界ものという感じがするのは、その世界観があからさまに現実世界のアナロジーを思わせるからだろうね。

「加護」ってほとんど現実世界の「才能」だし。主人公が戦闘技量ではなく、マネジメントスキルをかわれていたことも、まるで現実のビジネスの話のようだし、それをよく思わない者の権謀術数で嵌められてしまうところも、現実的な生々しさがあった。

その生々しさが、現実の経験なんかを呼び起こす。で、本作は俺TUEEEEのジャンルに入るだろうと思われるにも関わらず、共感性が高い。盾の勇者の成り上がりなんかもそうだけれど、現実世界のダーティなあるあるをうまくファンタジー世界に落とし込んだ作品は面白いね。

特に本作を見ていてへぇーと思ったのは、「加護を喜ばせる」という表現があったこと。これは中々面白くて、現実世界に当てはめると、「才能を喜ばせる」という言い方になるかもしれない。

俺はそういう見方をしたことがなかったけれど、言われてみればなるほどと思う考え方だった。個人的に世界観が一つ深まったということで、それだけで本作は読んでよかった作品だ。

才能は誰のためのものか

その考え方だと、才能を活かすというのは必ずしもそうしなくてはならないものではない、と言える。たとえばサッカーの才能があるからといってサッカー選手を目指さないといけないわけではない。サッカーがやけにうまい電気技師になったっていいわけだ。

まぁ社会的な成功には結びつかないかもしれないけれど、それよりもまず、本人が幸せであること、それ以上のものはきっとないのだろうね。

とはいえ、主人公・レッド(本名ギデオン)は、その才能を自分の生活にも使っている。となると、才能を私欲のためにしか使っていない(実際には人助けをしているんだけれど、もっと多くの人を救えるはず)、という見方もできてしまうかもしれない。

が、レッドはまず望んでそうなったわけではないのだ。我が身をとして、世のため人のために頑張ってきた。にも関わらず、報われず、最後は仲間からの裏切りにあい、心を折られた。となれば、もうどうしようもないだろう。

才能を過剰に尊ぶとリーダーが消える

そうなったのは、彼自身に支えがなかったためだ。作中でも触れられているとおり、その支えは間違いなく表紙のヒロイン・リットだった。勇者パーティーには彼女が絶対に必要だったのだが、残念ながら時と巡り合わせが悪く、パーティーに残ることにはならなかった。

ギデオンのブラコン妹・ルーティがいなければ、パーティーに残ったかもしれない。ルーティはラブコメ界に多く生息する兄に恋するタイプの妹っぽいので、リットとしては居心地が悪かったろうし、また今はまだ兄妹の間に水を差すべきではないと考えたのは、リットにとってパーティーに残らない最後の決め手となったであろう(でも正直待っててもルーティが兄離れする日はこないと思うよ……)。

実際、ルーティはスーパープレイヤーだが、マネージャーではない。彼女のスーパープレイを御しきれるマネージャーが必要だったのだが、今それが不在となって、勇者パーティーは機能不全となっている。プレイヤーの能力がすごすぎるのと、信頼の貯金があるためになんとかやっているようには見えているが、破綻は時間の問題、というかまぁ実態としては既に破綻している。

さらに突っ込むとさ、そもそもリーダー不在なんだよね勇者パーティー。普通は勇者がリーダーするんだけれど、勇者っていうよりただ一番強いやつなんだよルーティ。むしろ勇者は弱いくらいでもいいんだが、この世界ではわかりやすい才能、すなわち加護が優先されるので、ギデオンの立場が弱くなってしまったわけだ。

勇者というべきではないものに勇者という名前を与えてしまったことが、この世界のバグである。現実世界に当てはめて考えると、わかりやすい才能・力を優先すると、チームは破綻して何もできないという、よくある話に帰着させられるだろう。

まぁそんな感じで、色々と現実的なことを考えながら読ませる本作は、本質的にファンタジーものとは言い難いと思うが、面白い作品だと思う。

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