『花園君と数さんの不可解な放課後』1巻感想:学校生活を通じて伝わる微妙な生きづらさと性の問題が生々しい

胡原おみ, 花園君と数さんの不可解な放課後 1, 2019

コメントで勧められて読んでみた。なるほどこれは……もちろんラブコメの文脈なのだが、それよりも窮屈な学校生活のことを思い出した。

本作は社会における性の扱いという非常にデリケートな問題を学校という独特の文化形態を通じて扱っている。

優等生の数さんが知的好奇心の赴くままに、アダルトショップの息子である花園君に、辞書に載っていない性知識のあれこれを問う会話劇が基本なのだが、それを通じて学校という場の閉鎖性、無理解、生きづらさが伝わってきてつらくもあった。そういえばそういうところだった。そしてそれは日本の縮図である。

とまぁ、面白いは面白いし終始シモネタの筈なんだが、正直1巻時点だとなんだか社会派的な印象を受けるほどに、不思議と生真面目な内容である。以下1巻感想。

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花園君マジ紳士

タイトルは花園君と数さんなのに、表紙は数さんだけ。アダルティな内容だけにメインは男性読者を想定しているのかもしれないが、男向けなら女目立たせとけ、というのは2000-2010年代のラブコメの悪しき風習なので、2020年代には改められてほしいものである。特にこの漫画は、花園君と数さんセットで初めて成り立つ漫画であるので、きちんと花園君も描いてくれないと。

それに多分、この漫画は男性よりも女性のほうが読みやすいのではないかとちょっと思った。というのは、花園君が十代とは思えないほどに紳士で達観しているからである。それは花園さんに対して言葉遣いを常に考えている様や、傷つけないよう最大限配慮する振る舞いなどから見て取れる。

また、特に反抗期も迎えず、親の教育方針を受け入れ、世間の無理解に口答えという形で静かに抗うことはあっても(それすらも、暗に両親を否定されたことに対する反発だろう)、声を荒げたりすることもない。

静かな孤独

とはいえ彼は完全に周囲と折り合いをつけているわけではない。周囲の本質的な無理解からくる言い知れない孤独感に、静かに苛まれている。だからこそ、同じく偏見というイメージの壁に取り囲まれて、誰にも声が届かない花園さんにシンパシーを感じて、彼女の想いに応えようとしている。それは彼にとって生まれて初めての経験なのだろう。

個人的には、花園家の教育方針は現代日本においては強烈すぎる指針に思え、それを受け入れる彼にはもう少しフォローが必要なのではないかという気もするが、まぁでも高校生男子に親がしてやれることなど、実際のところ何もないのかもしれない。

ただ一つ言いたいことがあるとすれば「性の知識は正しく」「女性には優しく」「秩序を守ること」の他に、自分自身を大事にすることを明確に伝えてあげてほしいとは思う。この三大原則を守ることが結果的には自身のためにもなるのだが、あまり伝わっていないように思える。

たとえば最初の話で男性器を知りたいという数さんに、花園君は男性器を見せようとするわけだが、そこに彼自身の無自覚な自己否定はないだろうか。もちろん、自分の体に恥ずかしいところなどない、という気持ちはあるだろうが、それよりも、自分自身を軽くみている影響のほうが大きいように思える。あるいは、自分を誰かに見てほしかったのかもしれない。

花園君のこの不安定さと、数さんの生真面目さの奇妙なマッチングが、この漫画を面白くしているところでもある。実際、第一話で数が花園の下着に指をひっかけて、恐る恐るその中を覗き込む様子は、本作でも一番の艶めかしく、っていうか「これが描きたくてこの漫画描いた?」と言いたくなるような美しさを感じさせる場面であった。。。

ところで数さんの愛用する国語辞典は三省堂の新明解国語辞典のようだが(もちろん紙)、僕も学生時代使っていたのは新明解国語辞典だったことを思い出した。辞書としては非常に意欲的な記述が随所に見られることで有名。

イマドキはかばんを重くする辞書もすべてスマートフォンに全部入っているはずなんだが、この2020年でも学校はあい変わらずなんだろうか。

現状ラブコメというより別方面の楽しみ方をしてしまった気がしたが、まぁでもラブコメ的に今後が楽しみな二人であると思うので、折を見て続きポチろうかと思う(2巻は花園君も表紙にいるみたいだし)。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 以前コメントした者です。
    自分でも言語化できない感想を、このサイトで文字にして頂けるのが有り難いです。
    学生生活と性への興味について、このマンガ独特の間で軽めに描いてあることが気に入ったもので。
    ぜひ二巻の感想も楽しみにしてます!

    • ご紹介ありがとうございました。自分は情報収集スタイルが雑なので、教えてもらえると有り難いです。
      学校って特殊な環境ですよね。枠からはみ出てしまった思春期の少年少女にはしんどい場だったな、と思います。
      花園君淡々としているからそんな感じでもないですが、たいへんやなこの子と思いました。2巻もそのうち読んで感想あげますので是非にー。

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