実用的な記事は書かないがこのサイトのしょーもない信条なんだが、電子書籍を広めたい身としては、検索で辿り着くような記事だけでなく、たまたま見かけるようなところに記事があってもいいかなと思い、電子書籍についての記事を一つ置くことにした。
関心のある人は適当にざっと眺めてもらいたい。本当は関心のない人に眺めてもらいたい。
この記事について
この記事は、まだ電子書籍を使っていない、あるいは使っているけれど活用できているとは言い難いなぁという人に向けた、電子書籍の"予備知識"。電子書籍にはどんなものがあるのか、どんな良い点があって、どんな悪い点があるいのか、そういうことを、自分自身の経験と考えに基いて、徒然と書いた。"漫画"と銘打っているが、別に小説でも大して変わらない。
予備知識なので、電子書籍を買うという具体的なアクションを取る前の段階で知っておくとよい話…なのだが、実際には人間やらないとわからない生き物なので、ちょっといじってみたんだけど、くらいの人に一番参考になる気がする。
電子書籍とは
電子書籍とはPCやタブレット、スマートフォンなどで読めるようにデータ化されたものだ。色々な形式があるんだが、漫画の場合は画像データ(だいたいjpg)の塊。
電子書籍の入手方法は大別して2種類。
- AmazonのKindleストアなど、電子書籍ストアで買う
- 自分で紙の本を裁断してスキャナで取り込む(このやり方は一般に"自炊"と呼ばれる)
この2つの方法では、入手方法のみならず、得られるものも大きく違うが、別にどちらかでないといけないということはない。ただ普通の人は1.で済ませると思う(2.は知識と初期投資と時間が必要)。俺自身は、両方のやり方を都度使い分けている。
以下、1.で入手した本をストア本、2.で入手した本を自炊本と書く。
電子書籍の特徴
まずストア本と自炊本の両方に共通する、電子書籍と呼ばれるもののメリットを箇条書きする。
- かさばらない、ばらけない、目に見えない
- 本棚が部屋を圧迫しない
- 本が家の中で迷子にならない
- 家族に見られるとヤバイ本も安心だ
- 電車に漫画をシリーズで持ち込める
- 職場や学校にも持ち込める
- 引っ越しの時に威力を発揮
- 出張の時に泣けるほど有難い
- だからって旅行にまで持っていくんじゃないよ
- 紙の本の定価より安く入手することができる
- 安く買えるのを待っていたら旬を逃すこともある
- どうせ買っても積読
- 黄ばみや折り目などの劣化がない
- タブレットやスマートフォンを使うので、色々なところでさっと読める
電子書籍はデータである。データなので重さもないし大きさもない。デジタルなので劣化しない。タブレットやスマートフォンを使うので、隙間時間に色々なところで読める。トイレ読書が捗る。暗いところでも読めるけれど明るいところで読みましょう。
安く買えるかどうかは、買い方による。真っ正直に買うとあまり安くならない(後述)。
以下、デメリット。
- 必要機材にコストがかかる
- スマホはつらいよ
- イマドキはAmazon様のKindle Fireがあるので、1万もあればなんとかはなる
- でもだんだん色々なのが欲しくなるよ
- 本の管理がムズい(本棚最強伝説)
- 買ったことを忘れやすい
- 「お!セールだ安い!」→KindleとKoboとHontoとBookLiveで同じ本を買っていたというコントは実際に起きる
こんな感じ。もうちょっと詳しくみてみる。
タブレット、スマホは必須
必要機材はまず、タブレットないしスマートフォン。
スマートフォンは誰でも持っているだろうが、これで快適に読める漫画はだいぶ限られる。このサイト的に言うと、田中くんはいつもけだるげとか月刊少女野崎くんのような、ガンガンオンライン的1ページショートストーリーなら問題なく読める。最近の漫画はスマホを意識しているものが多いので、だいたい読みやすい(Web媒体だとむしろスマホじゃないと読みづらいcomicoみたいなのもある)。
一方、WORKING!!みたいな昔ながらの雑誌連載4コマ形式は、イマドキのWeb4コマが1ページ4コマであるのに対し、1ページ8コマあるのが普通なので、中々厳しい。
特に上図(新井理恵, X-ペケ-)のような、字が細かくて大量にあるようなのは軽く死ねる。つまり昔の本は死ぬ可能性が高い。コマが小さいとキャラクターも小さくなるし、ネタもたくさん出さなきゃで漫画家さんもたいへんだし、最近の大ゴマは良い傾向だと思う(昔書いた関連記事「スマホ時代の漫画は1ページ4コマで – 少年は少女に出会う」)。
せめて7インチタブレットがほしいところで、AmazonのKindle Fireなら1万足らずで買える。でも7インチだと見開きがキツイので、10インチのiPadが欲しいなーとか13インチのiPad Proだとほとんど雑誌と同じ感じで読めるなーとか思い始める。まぁご予算との相談です。あと10インチは電車に持ち込むにはでかいかもね。電車で読むなら7インチが使いやすい。
買ったことを忘れる
データの購入は現物の購入よりも購入意識が下がるせいなのか、「買った」ということを忘れやすい。歳のせいとか言うな。電子書籍で買ったことを忘れて現物買ったり、セールで安売りされてるぞ!と喜んで買ったら別のストアでも買っていた、などという笑えないコントは実際に起きる。起きた。
つまり購入した本の管理が大切……なのだけれど、やってみるとわかるが、電子書籍の管理は相当面倒臭いので、管理しないって割り切るのもアリ。ただそうすると、自分が持っている本の把握が難しいので、読み捨てる本ばかり買うことになってしまうだろう。割とマジでアナログの本棚最強なんだわ。
ストア本の特徴
ここからは、ストア本の特徴について書く。電子書籍ストアはたくさんあるので、ストア選びはけっこう重要なのである。
まずメリット。
- ストアによっては安く買える
- 主にポイント制度による
- ストア差はけっこう大きい。平均して実質20%OFFが一つの目安かな
- ポイントサイト経由で大量にポイント還元されるところもある
- 出版社によっては年に一度の半額セールなどもあり(竹書房とか)、重なると実質80%OFFになることもある
- クラウド(インターネット上)の本棚にデータが保存される
- 一度買ったらいつどこでもダウンロードできるし、必要がなくなったら消去できる(容量節約)
- ストアがある限り、データをロストしない
価格面で優位性があることが多い。あとはいつでも必要な分だけダウンロードできるというのは、通信量は気にする必要があるけれど(漫画は一冊50-100MBくらいある)、けっこう便利。
また、ストアがある限りデータが消えない、というのは大きなメリットだろう。バックアップとか考えなくてよい。逆にいうと、ストアが死ぬとデータも死ぬので(後述)、我が家が大災害に巻き込まれる可能性とストアが潰れる可能性のどちらか大きいかと言われると、それはどうだろうなぁ 笑。
次にデメリット。
- ストアに縛られる
- そのストアのアプリでしか読めない
- ストアが死んだら買った本も死ぬ
- 貸せない、売れない
- この機能は実装が望まれる
- ストアアプリのリーダーの使い勝手はだいたいウンコ
- 昔は平気で落ちるダウンロード失敗とかよくあったけど、最近はだいぶよくなってきた…かもしれない
- メジャーどころのストアならそんなにひどくはないはず…と思う
- 細かい設定は期待するな
- 出版社によっては発売日を遅らされる
- 取次との関係もあるんだろうか。電子書籍を軽んじている証拠だろう。電子書籍の品質もお察しなことが多い
- 品質がひどいことがある
- 文字が滲んでいるなど、画質が荒い(データ容量が公開されているなら、それを見るとある程度見当がつけられる)
- カバーの袖(カバーの内に折り曲げた部分)がない(参考「本の部位の名称とは?【知っておきたい本の雑学】 - ブックオフオンラインコラム」)
- カバー裏がない
- 帯がない
- 品質はだいたい出版社による。スクエニあたりは頑張ってる
こんな感じ。
電子書籍の品質について
電子書籍の品質は、ものによってマチマチなのが現状。出版社毎に大まかな傾向があると思う。品質とは、画質とか、カバー裏ちゃんと収録しているか、とか。
画質の荒さについては、データ容量が公開されていれば、それを見ることである程度の見当は付けられる。ただし、容量が低いからといって品質が悪いとは限らない。たとえば書き込みが少なくて空間の多い漫画(たいていの4コマ漫画を想像するとよい)は、圧縮効率が高いので高画質でも容量は小さくまとまっていることがある。
カバー裏等の欠損問題は、最近だいぶマシになってきたとはいえ、今なお深刻である。イマドキはカバー裏や帯にも何かしらあるのが多いから、ないとつらいよねぇ。帯はまだしも、カバー裏は絶対に実装してほしいよ。カバー裏読むこと前提の表紙でカバー裏がないとか平気であったよ…(たとえば少年画報社の『マンガでわかる心療内科』とか…今はカバー裏もあるけど)。
壊滅状態なのは袖かなぁ。袖って、カバーの内に折り曲げた部分。『となりの関くん』とか、カバー袖が作品の一部になっているものもある。そういう作品で袖がないのはつらい。本当に許されざる。
基本的に紙の本より高品質なのは非常に稀。せっかくの電子なんだから雑誌のカラーとかちゃんと再現してほしいけど、残念ながら。
ストアに縛られるとはどういうことか
ストアで買うと、ストアに縛られる。つまり、Kindleで買った本はKindleでしか読めない。Kindleでしか読めないということは、Kindleのデバイスやアプリを使うことを強制される。
これによって、どういうことが起きるか。たとえばある漫画の1巻をストアAの1巻無料セールで購入したとする。面白かったので2巻も買うことにしたが、ちょうど時を同じくしてストアBでポイント大還元キャンペーンで実質40%引きになっていたので、2巻はストアBで購入した。
すると、1巻を読むにはストアAのアプリを使うが、2巻を読むにはストアBのアプリを使わなくてはならない。しかもストアAのアプリではさかんに「2巻が買えます!」と延々宣伝されて鬱陶しいというオマケ付き。
これが重なると、しまいに何の本をどのストアで買ったのかわけがわからなくなるので、ストアを分散させるのはあまりよろしくない。しかしストアによってセール・キャンペーンのタイミングや内容が異なるので、安く買おうと頑張ると、結果的にストアは分散され、管理がものすごくたいへんなってしまうのである。
さらに、ストアのアプリが必須なので、もしそのストアが死んだら、買った本も読めなくなる可能性がある。まぁそこまでの大惨事になることは稀だが、Rabooという前例があるんだな(参考記事「Raboo終了! Rabooの残した傷跡を考える (全文) [電子書籍] All About」)。ちなみにRabooはKoboの前進。最近はKoboがあるのに楽天マンガとか始めるし、楽天注意報である。
現在、電子書籍ストアはいくつも乱立している。でも全体の椅子の数は変わらないわけで、それらを奪い合わなければならないのだから、何年かしたらほとんど淘汰されていた、というシナリオは十分考えられる。
電子書籍ストアで本を購入することの本質
色々書いたが、要はストア本を購入することの本質は、そのストアで読む権利を購入することであって、本そのものを購入することではない、ということ。ここ超大事。
より正確には、DRM(Digital Rights Management)というコピーガードの仕組みがあって、それを採用しているかしていないかで決まる。DRMがかかっていなければこのような問題は起きないのだが…せめて規格を統一してくれりゃねぇ。詳しく知りたい人は検索したらいっぱい出てくるよ。
そういう色々なややこしいことを考えると、わけわかんなかったらとりあえずKindleストア、が無難だと思う。なにしろ天下のAmazon様が運営だからねぇ。まず絶対に潰れないし、撤退もありえない。
ただし、Kindleのポイント還元などは微妙。ポイントだけなら他に有利なストアはたくさんある…けれど、Kindleだって以前は楽天Koboに対抗して常に20%ポイント還元状態だったんだよ。その時最適なストアが、その後も最適であり続ける保証はどこにもないということ。長期的に安心できるという意味では、国内企業のサービスじゃなくて残念だけれど、やっぱりKindleと思う。
まぁKindleの一番の問題点は、独自の性表現規制が厳しくて、『無邪気の楽園』など買えない本もちょくちょくあることかもしれない。欧米人はそういうの過敏だよなぁ。ラブコメ漫画には過激な性表現がされているやつも多いし、その観点では、国内の電子書籍ストアが安心かもな。それだったらeBook JapanとかBookLive!あたりかな、俺が選ぶとすれば。ストアはいくつか使ってきたけれど、今は主にKindle、たまにBookLive!って感じで使っております。使わなくなったストアの本は……もうしゃあないねー。
自炊本の特徴
ここからは、ストアの縛りから解放された、しかし果てしなく面倒臭い、自炊本について語る。
自炊の特徴。まずメリット。
- データは俺のもの
- 最重要
- 古本の復活が可能
- 黄ばみの白色化
- 湿って撓んだりしていても問題なし
- 100円の古本をキレイキレイにして復活は自炊の浪漫
- 電子書籍として売られていない本でもOK
- 漫画に限っては、最近はたいていの本は電子化されているが、昔の本だとまだまだ出番がある
- 帯、袖、カバー裏、さらには紙ならオマケグッズまでデータ化可能
- 特別オマケ漫画とかファンとしては持っておきたいよね
- こだわれば最高品質
- ただしクソ面倒かつ金かかる
- 適当にやってもそこそこの品質にはなるので、基本は"そこそこ"を目指す。適当でも某社の提供する電子書籍よりはマシだったりする…
1.が最重要。一度データ化してしまえば、データをロストしない限り俺のもの。ただしロストしても誰も助けてくれないので、バックアップは必須(それでも大規模災害などに巻き込まれたら……仕方ないね、っていうか漫画どころじゃないよねそれ)。
次にデメリット。
- 初期投資が必要
- だいたい5-10万。ランニングコスト1冊あたり10-30円程度
- 機材のレンタルサービスもあるが…
- 時間がかかる
- 代行業者もあるが、そうすると金がかかる。漫画の場合電子書籍より高くなるかもしれない。違法性も指摘されている
- 画像の補正やデータ管理のために、情報系の知識がいる
- 逆に言うと、知識があれば色々できる
つまり自炊はとにかく自由!その代償は金と時間。そして知識がない人お断り。
まーね、オススメしないね。コンピュータの知識があって、本を管理するのが好きで、DRMが嫌いとか、そういう思想的な信条がないと続かないと思う。
コストの話
初期投資が高い問題については、機材のレンタルサービスがあるけれど、うーん、どうだろうね。自炊って簡単そうだけれど、やってみると色々失敗するもんでさ。俺も最初の頃は、漫画なのに無駄にpdfでOCRかけて利便性悪くしたり、画像の解像度や圧縮率の設定が適切じゃなかったり、カバーの扱いがイマイチだったり、取り込みで縦線が入ってしまっているのに気づかなかったり、裏写りの対処の仕方がわからなかったり……借りてすぐできるかっていうと、どうだろうなぁ。
初めての人は、運用方法を確立するまでの試行錯誤が必要だと思う。ノウハウ公開しているサイトもあるけれど、やってみないとわからないことは多い。自分にぴったりの運用方法は、結局自分で作業する中で培っていくしかない。
すると、少なくとも最初の一台は自分で機材を購入して、アレコレやって、失敗を繰り返して作業内容を改善していく、というステップがどうしても必要になるんじゃないかなぁ。そうすると、やっぱり5万はいるんだよね。ハードル高いよね。そして始まる試行錯誤……。
でも、その苦労を乗り越えると、素晴らしい自由が待ってはいる。ストアのウンコリーダーではなくて、サードパーティーの優秀なリーダーが使えるしさ。でもその自由が欲しい人自体、そんな多数派でもなかろうな。
というわけで、手間さえ惜しまなければ自炊は素晴らしい。けれど、その手間が本当に手間だし、またその素晴らしさもわかる人にしかわからない類なので、オススメしない。たいていの人にとっては、素直にストア本買うほうが合理的。
わかったうえでやる不合理なる同志、共に頑張ろう。
ちょっと愚痴
本当は、自炊本並のクオリティでコピーガードなしのデータを、出版社とストアが電子書籍を売ってくれるのが一番いいんだけどさ。誰が好き好んで、本切り刻んでスキャナに取り込むなんて面倒臭いことしたがるかって話でさ…。
DRMやるならやるでもさ、貸し借りの仕組みを作るとか、色々なストアが連携して二重買いを防ぐとか(ストアは嫌がるだろうけど)、ユーザーのために出来ることってたくさんあると思うんだよ。せっかくの技術は、不便にするためじゃなく便利にするために使ってほしい。Kindleだと家族間共有の仕組みがアメリカ本国にあるらしいし(Kindle最強伝説)、日本でもやってほしいな。
まー色々と言いたいことはあるんだけど、現状どうしようもないわけさ。自分にできることを粛々とやるだけさね。
まとめ
いざ書き出したらクソ長くなってしまった。本当に薦める気あるん?ってくらい悪いことも書いたけど、本当に薦める気があるんだよ。電子書籍はいいもんだよ。悪いところもたくさんあるけれど、みんなが使えば、それだけ市場が大きくなるってことだから、お金が動けばきっと今より良くなるはず。尻込みせずみんな使おう。今だって、いいところはたくさんある。
身も蓋もないが、結局何事もやってみないとわからんので、使ったことがない人はとりあえずスマホで無料セールとかしてる本を試しに買ってみるのがいいと思う。Kindleのセール情報と言えばここ→「キンセリ(Kindleセール情報まとめリストを1時間ごとに更新)」
もし買うなら、ガンガンオンラインとかWeb出身のコミックなら、スマホ前提のつくりになっていて読みやすいものが多い。進撃の巨人とか迫力のあるアクションシーンが見開きで連発される系は、スマホではやめておくが吉だが、一度は経験するのも悪くない。
パピルスから実に遠くに来たもんだ。本のあり方も、時代時代で変化していく。良いところもあれば悪いところもあり。その変化を適当に楽しみながら、取り込めるところは取り込んで、よりよい素敵漫画ライフを送りたいもんやね。願わくば、みんなが幸せになれるような仕組みが築かれんことを。
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