私と脱出しませんか? 8, ヨウハ, SCRAP, 2024-12-12
最初からこれをやってくれていればなぁ……。そう思ってしまったのはラブコメ観点過ぎるだろうか。しかし現実的に、リアル脱出ゲームというテーマ自体は面白いものの、それを漫画の中で追体験したい層は決して多くはなかろうし、その意味では8巻続いただけでも十分快挙なんじゃなかろうか。
しかし8巻を読むと、本作はもっとポテンシャルあったのになぁと思うのも、一人のラブコメ好きとしては偽らざる気持ち。
以下脱出完了した最終巻感想。結局xxxxしないと出られない部屋はなかった(残当)。
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置いてけぼり感
本作には大きく分けて二つの側面があった。一つはリアル脱出ゲームというテーマ、もう一つはラブコメ。この二軸を交差させて紡がれた物語だったと思う。
で、まぁ俺なんかは脳溶けしラブコメの民なわけで、リアル脱出ゲームというテーマ自体にそこはかとない面白みは感じられるものの、作中の謎など一切解く気はなく(解く気にならず)、脱出ゲームのターンでは目が滑っていたというのがまず正直な感想だ。
まぁ目が滑ったのは俺の素養の側面は当然あるのだけれど、作品のスタンスの面もあるとは思われる。ヒカルの碁の読者で囲碁のルールさえ知らない人は非常に多かったと思われるし、金田一少年の事件簿で真面目にトリックを考えながら読んでいる読者もそう多くはないだろうと思う。それでも多くの人が楽しめるのは、そのテーマとなっているものを直接知らずとも、登場人物に共感し楽しめる構成になっているからだ。
もちろん本作も魅力的なキャラクターが登場し、そこにある共感を楽しむことはできる構成になっているのはそうなんだが、しかし現実として、俺が7巻くらいまで読んで思ったことは、「ワチャワチャしていて楽しそうだなぁ」だった。喫茶店でコーヒーを飲んでいる時に、窓の外ではしゃいでいる集団がいたら、ちょうどこんな気分になるだろうと思えた。そこに共感はなく、あるのは傍観ばかりだ。どうやら、俺はとっくにゲームから脱落して、ゲームの外でくつろいでいたらしい。そんな感じになっていた。
一言で言うと、ついていけないと感じさせられた。
そして返り咲くラブコメ感
その印象から再び引き込まれたのは最終巻となった8巻。最終ゲームは常深の告白大作戦で、常深自身が回りに協力を得ながら作った、学校そのものを舞台にした脱出ゲームで、これはラブコメ史上でも相当手の込んだ告白に入ると思う。
これは楽しかった。これまでの脱出ゲームは、どれも「純粋に脱出ゲームを楽しもう!」だったのに対し、今回は「綴野に告白する!」という明確なラブコメ的な目標設定があった。そして綴野自身も、「これはもしかしてそういうこと?」という期待と不安が入り交じる中で脱出ゲームをプレイし、その中で確信を深めていく……という構成になっており、これならばゲームの謎がまったく理解できない哀れな脳溶けし民にも先を読ませる。
最後はもちろんハッピーエンド。関わった皆に祝福される。こういうのでいいんだよ(ラブコメ民並感)。
そしてこれがラブコメの面白いところだと思うのだけれど、ラブコメとしてうまくやるほどに、不思議とそのテーマとなる脱出ゲームをやってみたいと思わせられる。彼らが楽しむリアル脱出ゲームといふものを俺もしてしむと思える。
脱出ゲームとラブコメの分離感
一方で、最後の脱出ゲームにおいてもなお、脱出ゲームとラブコメの分離が感じられたことも確かだ。常深が考えたのはいいけれど、ゲーム設定上仕方ないとはいえ、肝心の常深がほぼ出てこないのは、ラブコメ的には非常に残念でもある。
このラブコメと脱出ゲームの分離感が本作にはずっとあって、綴野と友達の確執(?)についても、リア脱のターンと友達物語のターンが細かく切り替わる感じで、どうにも相乗効果がない。
全体としても「今から脱出ゲームのターン、はい終わり、はい今からラブコメのターンね」みたいな感じで勿体なかった。たとえば8巻最初のお色気シーン、しかも綴野が嫉妬心を剥き出しにして自ら脱ぐシーンなどはラブコメ的には相当強いんだけれど、「これを脱出ゲーム中にゲームと絡める形でやってくれよ!」などと思うのであった。ヒロインが可愛いポーズするくらいで満足するラブコメの民ではない。
それでも最終ゲームだけはゲームの目標設定自体が壮大なラブコメ物語であったため、分離感はあっても分離しきらなかった、といったところだろうか……。
最後は大団円なので
そんなわけで、ラブコメ民としては少し勿体ない気もするのだが、リアル脱出ゲームへの思い入れがあるからこそ、安易にラブコメと混ぜたくなかったのかなぁ、なんて思ったりもする。ラブコメは非常に強い成分なので、混ぜるとその味ばかりが出てしまうから……。
でも実際、ラブコメやればやるほど「コイツらのやってるリアル脱出ゲームってのは楽しそうだな」という気持ちになるのがラブコメの不思議でもあるし、最終巻読む限りラブコメとしての側面も大事にしていたように思うので、もっとポテンシャルあったのになぁ……ともやはり思う。最後みたいに目標設定ラブコメにするだけで全然違うんだけど。っていうか脱出ゲームって密室が基本だから、ちゃんとやればラブコメとの相性よさそうなのになぁ。
まぁでも、大団円だからさ。終わりよければなんとやら、って。謎が解けても解けなくても、時が来れば物語は終わる。それが大団円なら、きっといい話なんだろう。
お疲れ様でした。常深くんが綴野さんに監禁される話が読みたかった
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