桜井のりお, 僕の心のヤバイやつ 3, 2020
特装版があるなんて知らなかった。特装版があるやつは通常版ところで明記してくれよ。頼むよ。この漫画の特装版ならほしかったよ……そこまで差額ないし。
桜井のりおのガチなラブコメ第三巻。個人的に大注目していて、1 on 1ラブコメの中でも桜井のりおが描くイチャラブは一味違うと思わされる。
この漫画は徹底した主人公・市川の視点なのだが、それにも関わらずわかりやすい山田に比べ、むしろわからないのが視点人物である市川だというのが、この手の漫画としては中々どうして特殊だと思うし、それが面白いのだと思う。以下3巻感想。
よくある男女カプものかもしれないが
ここ数年、男女1vs1のカプものが豊作である。あまりにも多すぎてウンザリしている人もちょくちょく見かけるが、個人的には「毎日ご飯食べてるからってご飯に飽きるとかある?」という気でいて、もはや主食。
とはいえ「白飯だけでなんぼでもいけるぜ」なんて若き十代はとうの昔にすぎ、実際30も過ぎると「飯はいいや」みたいなこともよくある、というかむしろそのほうが多い。というか冷静に考えると生来ひねくれた文化系だった俺は白飯だけでいけるぜなんて時はいっときもなかった。
いくら主食とはいえ餓死寸前でもあるまいし、白飯だけぼんと出されると、別に飽きたりウンザリしたりすることということはないのだが、まぁお腹いっぱいだなぁという気持ちにはなるものだ。
なので、この時代に数多ある男女いちゃラブものならば、やはり何かしら一工夫は欲しいよなぁと思うし、そこに作品の個性があるとも思う。
で、本作は正統派の男女いちゃラブ、ネガポジカップルもので、シチュエーションというか設定だけを見て取ると、よくあるといえばよくある類のものだとは思う。男女で性格真逆のカプは昨今珍しくないのはそうだろう。
陰キャ描写
だが読んでいて、この作品は一味違うなぁとしみじみ思うんだ。それは多分、主人公であるところの徹底的な市川視点と、彼の心情描写にあるのだと思う。みつどもえのひとはもそうだったけれど、桜井のりおの陰キャ描写ってほんと感じ入るところがある。
まぁ同じ陰キャでもひとはは美少女であり、美少女といえば野郎向けの漫画じゃたいがいのことは許されるし、なんだかんだ作中でもそれなりに良い扱いを受けてもいたものだが、本作の市川は男。
となると、ひとはよりも読者視点でも作中でもひとはより厳しい評価に晒されることになるが、そうしてマイナス方面に深堀りした分、ギャップという点ではより大きな驚きをもたらしているかもしれない。
山田しか見えない
実際、山田への好意とフォローのためである市川の奇行が良いのは、彼が男子で、彼の優しさ好意的に捉えてくれる人がまるでいないことが大きい。いや、正確にいうと山田だけが気づくのだが、そこに唯一無二感の浪漫がある。
山田の、どちらかというと汚い部類に入る、やけにでかい字が印象深い。確かに美人でいい子なんだが、割と癖のある、付き合いやすいかというとそうでもないようなタイプに思えるけれど、市川視点だととにかく可愛らしいのは、市川にとって山田がそういう存在だからだろう。なにそろもう山田しか見えない。
授業中山田しか見えない。いただきました。
市川が隣の女子とよろしくやっている(ように見える)ことについて、山田がちょっと嫉妬混じりにそれとなく市川を責めるシーンなのだが、負けずに(というかここでは市川の自己評価の低さが幸い(?)して、市川は責められていることにも気づいてないのだけれど)「山田しか見えない」で力押しするのは、普段の彼の態度も相まってよろしい。
いやまぁ、「(前の席の山田の背が高いから黒板が見えなくて)山田しか見えない」なのだが。文脈で言葉に別の意味をもたらすのはコメディの基本といえばそうかもしれんが、このノリ作者さんほんと得意だよね。
それにしても……別に付き合っているわけでもないのだけれど、お互いに完全に意識しまくりで距離を詰めたり離れたりしつつドギマギするラブコメのフレームワークは、2020年になってもよいものであることだなぁ。
コメント