作・犬上すくね。2008-2009年全3巻。作者買い。
10年前の作品ということを考慮しても、なんだか懐かしい香りがするラブストーリー。
しんみりしたわ。一気読み系。短い割に寄り道も多く、表題になっている割に、天使・堕天使の設定とかこれほんとにいる?という感じでとっちらかった印象もないではないが、本筋はやりとおす。
死後の世界だし、ノリが軽くても明るい話にならんのはしゃーないのだろうか。
以下ネタバレ感想。
長い長いお別れ
一言で言うと、好きだった幼馴染と10年かけて本当にお別れする話。いや10年じゃないけど。とにかく長い。うーんつらい。読み終わった後すごいしんみりしてしまった。
男の子と女の子が遊んでいる時に水難事故にあってしまい、女の子のほうは死亡。そのときやってきた天使にお願いして、男の子を助けるように、そして男の子につらい思いをさせないように、目が覚めて自分がいなくても泣かなくて済むようにお願いする。それを承った天使、男の子から女の子の記憶をまるごと消すという超強硬手段に出る。
なんでやねん!と俺思わずツッコミ。しかも禁則事項だからということで、女の子にはそれをきちんと説明しない。その後何年もして女の子はその事実を知り、ボロ泣きするわけだが、その時の天使の言葉が
「…悪かったね あの時は、ああするほかなかったんだよ。」
絶対そんなことないと思う。この天使の思い切りすぎた行動が、すべての元凶と言っても過言ではなかろう。悪い人じゃないんだが、人の死が当たり前に成りすぎていて感覚がどこか麻痺しているんじゃなかろうか。
結局、男の子と女の子は別れを実感することさえなく死別。本来その時に流すべきだった涙は負債となって、長い年月をかけて大きく膨らみ、最終的に何倍もの涙となるのであった。いやまぁ、結果として男の子が悲しみを受け止められるだけの時間ができた、という見方はできるかもしれんけどさ……。
「好き」と最後に言うために
そんな男の子・ルキオと女の子・サリが、ルキオの交通事故をきっかけに天界で再会する。そして、ルキオは失ったサリとの思い出を取り戻し、在りし日の恋心も、サリが最後まで自分の身を案じていたことも、すべて思い出す。だが自分が生きていることも知り、サリのことを想いながらも、最後は結局地上に帰る。二人はあの時言えなかった言葉を、想いを伝えて、本当の、今生の別れを告げる。
……なるほど。つまり、これはルキオとサリの、別れのラブ・ストーリーなんだな。
ルキオ生きてんのかい!とか、ルキオが地上に帰る決意をより固めさせた、地上の想い人・江波さん、えらい急にルキオのこと思い出したなとか、ハルめっちゃ可愛いけど物語の本筋に一切絡んでなくねとか、ガブリエル周りの話ってなんだったんだとか(天界が色々問題山積のお役所なのはわかったが)、まぁ色々ツッコミどころはあって、それがB級感を醸し出しているものの、本筋のラブ・ストーリーは貫徹。本当はもっと長く続けて、各要素を絡めていく予定だったのだろうか?長く続いていれば、結末は変わっていたのだろうか……。
作者さんのあとがき曰く"この世とあの世にルキオの想い人がいる時点で「誰ひとり泣かせずに終わらせるエンド」は無理だなと思った"そうなのだが、ルキオと江波の間にそんな大層な絆があったとは思えんし、明らかにルキオは最後サリに気持ちが傾いているから、そんなこともないと思うんだがなぁ…。ただ、せっかく生き残ったルキオが、死んでサリと一緒になるのがハッピーエンドかというと、やはりそれも違う気がする。
とすると、やっぱりまぁこのエンドが予定調和ということになるのかもしれない。天使界も色々問題があるようなので(ルキオの記憶を消した天使の判断は納得いかんし、生きてるルキオを天界につれてくる不手際もひどい…天使の不手際で悲しみ倍増)、そこにフォーカスを当てればまた別だろうが、そんな話されても困るしな…。
どうやっても、切なく終わるしかない設定だったということか。死別することになった幼馴染が、死してなお、何年もかけて、気持ちを伝え、そして別れを告げる物語。あーなんて切ない……それでも、救いは救いなんだろうけれど、ハッピーになるルートはなかったのかなーって、読んだ後モヤモヤしてしまったよ。。。
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