なんだこの安定ぶり
姉・近衛靄子が、弟に求愛されていると勘違いして、弟の一挙一投足に妄想を膨らませ、一人相撲を取るという、ただそのワンパターンのみを繰り返している本作。普通はマンネリになりそうなものだが…いやマンネリじゃないとは言わないのだが、失速しているわけじゃなく、それどころか周囲の人物やダーク輝などの存在もあり、面白さはむしろ上がっている…。
1巻から読み続け、ついに10巻、もうちょっとで最新刊の11巻に追いつくぞ。以下ネタバレ。
擦れ違いしかないのにほっこりするんだが
やーすごいなこの漫画。1巻からずーっと擦れ違い続けていて、もはや靄姉は統合失調なんじゃないかレベルだけど、作品はひたすら明るくて、登場人物は皆ハッピー。これはすごい。
状況的には有名な「【1087】家の中にストーカーがいます」これに近いものがある。というかこれの最後のくだりがまんま当てはまる。
「弟」は実在して、しかしここに書かれているような異常な行動は全く取っておらず、すべてはあなたの妄想という可能性も読み取れます。この場合も、あなた自身が統合失調症であることにほぼ間違いないということになります。
うへぇ。でもこのリンク先と違って、靄子は弟が自分に嫌がらせではなく、求愛していると思い込んでいるのは大きな違いだ。ベースにあるのは決して負の感情ではない。そして先に書いたとおり、本作の登場人物は多少の悩みは抱えれど、基本的にはみんなハッピー、誰も困っていない。誰も困っていなければ問題ないって、マンガで分かる心療内科で療先生が言ってたよ!↓
強いて言えば靄子自身が困っているといえば困っているけれど、なんだかんだいってまんざらでもないしね靄子。
バランスがいいな。たとえば10巻の天体観測回で、リビングに望遠鏡があっただけで「姉の着替えを覗く気かぁぁぁ!?」といつもの妄想、挙句輝を「出たな!覗き魔めー!!」と覗き魔扱いするが、輝のスルースキルは半端なく、望遠鏡を見て「ああ、それ?」の一言で済ます。そして説明されれば1コマで納得の靄子、そのまま何事もなかったかのように平静になる。この強弱の付け方で、なんというか尾を引かないし、嫌な気分にならない。仲の良い姉弟のやりとりくらいになっている。
しかし天体観測回、もし輝が新星をみつけて命名権を得たら、「モヤコ」と名づけロマンチックなアプローチをしてくると考える靄子、そこまで愛されていると思い込めるのもすごいよ。これはこれでもはや一つの愛の形に思えてきたよ。
そして、こんな状態でも揺るぎない姉弟愛、最初は姉弟ものとしてどうだろう?と思ったけれど、ここまでいくと、これはこれでアリなんじゃないかと。いや、輝がマジで一線超えるのはちょっと想像できないけど、靄子だったらたとえ輝が結婚しても「姉への愛をカモフラージュする仮面夫婦だったのかーー!?」とか考えそうw
あ、でも輝の相手が香澄だったらどうかな?さすがに引き下がる?うーん…。
香澄といえば、本作には欠かせないツッコミポジションだ。靄子に対して香澄やふぶきのようなツッコミ役(ふぶきは煽っていくスタイルだが)がいるのは、全体のバランスに大きく寄与している。靄子が暴走するだけじゃなくて、それは違うぞ、とちゃんと突っ込んでくれるから、読者としても「そうそうそれを言って欲しかった」とスッキリする。
それでいながら、靄子と輝の関係を皆が微笑ましく思っていて、また靄子に振り回されながらも、みんなそれが楽しくて、また生活も充実し、人としても成長していく…うーん、擦れ違いコメディでここまでハッピーな構成なのは、なんだか読んでいて、落ち着くなぁ。
やっていいことと、やったらまずいことの線引きが、作者さんの中にしっかりとあるんやろなぁ。はっちゃけているように見えて、その実すごく抑制のきいた漫画だわ。
次の11巻で追いつくぞー。
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