『大正処女御伽話』3巻感想:嗚呼ペシミストの恋、乙女の恋、にやにや必至の純愛万歳

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作・桐丘さな。

2巻の終わりが非常に不安になる感じだったので、どうなるかなぁと恐々として読んだのだが……。

ええやん。むちゃニヤニヤできる。珠彦が夕月のこと好きすぎてニヤニヤ。珠子がツンデレ妹でニヤニヤ。ニヤニヤ必至。読んだ人はもれなく犯罪者フェイス待ったなし。

でも相変わらず胸糞な要素もあって、この後どうなるのかなぁという感じ。でもそんなシリアスが、この漫画を秀逸たらしめるスパイスになっている。以下3巻感想。

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バカップルはじまるよ

関東大震災という日本史上でも凄絶な災害という、うつすぎる引きだったので、いったいどうなることかと恐々としつつ読み始めた。おかげで読み出すのにえらい時間がかかってしまった。

そんな感じで読み始めたら、1ページ目からいきなりバカップルエンジン全力全開ブースト。夕月は手が冷えるという珠彦の手を取り、「ここにあてるとすぐあったかくなりますよ(はぁと」と自分の頬下、首筋に当ててすりすりし始め、しまいに自分を膝の上にのせると暖かいよ!という謎の提案。珠彦快諾↓。

桐丘さな, 大正処女御伽話, 第3巻

なんじゃこの茶番は。お互い照れてドキドキのあまり身体も熱くなりましたと、いやいやまったくお熱いことで、熱死するわ!

熱死しました。めでたしめでたし。

あの珠彦が

では終わらず、関東大震災の話に戻る。ここからしばらく、いかに珠彦が夕月のことを愛しているかが数話かけて語られる。1巻のあの憂鬱そうなペシミストが、愛する人のために芯から胸を痛めるその様は素晴らしい。そして珠彦は、夕月の安否を確かめるため、(綾と一緒に)千葉から東京まで歩いていく。そこで医者の叔父と再会した時の精悍な表情に、かつてのペシミストの面影はない↓。

桐丘さな, 大正処女御伽話, 第3巻

凛々しい…。珠彦視点だと、成長物語の側面があるんだよな。

あの珠子が

そして、叔父の手伝いで一緒にきていた妹・珠子とも会うのであるが、珠子がデレデレ過ぎてつらい。ユヅ姉さまラブっぷりは健在として、兄・珠彦に対しても多少ツンを残しながらもデレデレ。

親を同じくし、性根では兄妹間で一番近かったであろう二人。本当は珠彦は珠子に優しくしてやりたかったのだろうし、珠子も甘えたかったのだろう。夕月のおかげで、ようやく二人は蟠りをなくし、存分に兄妹の触れ合いができるようになったのだ。その関係はまさに理想的な兄妹という感じで、たいへん微笑ましい。色恋絡まず、健全に妹可愛いのは昨今のラブコメでは希少価値かもしれん。珠彦の水筒で間接キスを戸惑っていたのは、深読みするとアレだが、兄妹とはいえ異性だしそれくらいは照れるだろう。

綾は珠彦をどう思う?

深読みといえば、綾は珠彦のことをどう思っているのだろうか。珠彦と夕月がラブラブ空間作っているのを見ているときの、描写なんかどう捉えたものなのかな↓。

桐丘さな, 大正処女御伽話, 第3巻

夕月が目を覚まして珠彦の顔を見た時に、思わず珠彦に向かって「大好きです」と面と向かって言ったときなどは、目を見開いていた。東京駅で夕月の名前を叫び続ける珠彦を見て、「夕月は幸せものだね」と呟くのも、何か他意があるのだろうかと穿った見方もできる。どうなんだろうな。上図の場面で立ち去る綾に対して、珠子も何か感じるところがあったような表情をしていたが。さて。ちょっと気になるなあ。

いい話だから

でも、なんといっても夕月である。夕月と珠彦である。妙な話だが、夕月のような出来すぎたヒロインだと、ラブコメは難しいと思う。出来すぎているだけに、何をしても嘘くさくなる。物語なんてのは嘘ついてなんぼであるし、嘘であることは何も問題がないが、嘘くさいのは問題だ。

その嘘くささを打ち消す…というより気にならなくさせているのは、言葉選びなどからもわかる丁寧な時代背景描写、周囲の楽しいだけではない陰鬱な人間関係や、関東大震災のような実際にあった未曾有の災害といったシリアスな要素である。シリアスさが、話を引き締め、出来すぎたヒロインなどという些事よりも、物語に目を向けさせる。

逆境に挫けずひたむきに頑張るヒロインと、感化される周囲の人々、とりわけ主人公の姿がたいへん好ましく、ああ世界よこうあれ、どうかお幸せにと、そう願わずにはいられない

世界名作劇場のようだな。話だけ見れば、児童向けの絵本にでもありそうだ。物語としていい話なんだよねぇ。それがうまいこと現代的なラブロマンスに昇華されている。珠彦はもちろん、夕月の視点からも、珠彦との同棲生活で育まれた愛情の経過が丁寧に描かれて素敵だわ。

画もすごく綺麗だしなぁ……美男美女だし映える。個人的に一番ええなぁと思ったショットは、ついに夕月を見つけた珠彦が、夕月を抱きかかえて走っていくところかな。そして、胸の中でユヅの名を叫ぶ↓。

桐丘さな, 大正処女御伽話, 第3巻

かつて夕月が倒れた時には情けないくらい醜態を晒すだけだった珠彦が、びしっと珠子に指示をして、あっけにとられている珠子を置いて走り出す。大粒の涙を風に乗せて、闇の降りた寒空の下をお姫様抱っこ(?)で駆け抜ける。素敵過ぎるやろ……。

シリアスだからいい

もしこの漫画がぬるい日常系だったりギャグ系だったりしたら、夕月の可愛さを堪能できなかったろう。まして珠彦がよくあるハーレム主人公の無個性優男だったり、珠子が最初からデレデレ妹だったり、綾がただのいい姐さんだったりしたら、もうどうしようもねぇ感じになっていただろうなぁ。シリアスだからこそいいんだな。

とはいえそれだけに、今後の展開がなお予断を許さないことも事実。ハッピーな話にしてほしいねぇ……。

ところでツンデレ妹・珠子がほぼデレデレ状態になってしまい、可愛いは可愛いのだが、あの見下し顔が見れなくてちょっと残念であった。だが、目の前で兄と夕月のイチャイチャからのキスシーン見せつけられてぷるぷるしているのは可愛かった。

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