『溺れる花火』感想:プラトニックラブの夢が生身の現実に押し潰される

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作・峰浪りょう。全2巻。

タイトルと表紙の雰囲気からして、楽しい話じゃなかろうなと、長いこと積読していたのだけれど、同著者の初恋ゾンビがえらい面白かったので、こりゃ積読してる場合じゃないなと思って読んだ。

だいたい表紙通りの話であった。10代の純粋が20代のリアルの前にぶち壊れる。こういうの久々に読んだなぁ。読後感悪し。

以下感想。

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プラトニックラブの夢

ピュアラブ路線を嘯いていた主人公・泳太が、セックスの悦びに目覚めてヤリチンになる話。というと身も蓋もないが、小秋とのプラトニックな関係を尊んでいた泳太が、小秋の従兄妹・夏澄との肉体的触れ合いを契機に、肉欲を知り今まで溜め込んでいた自分の中の欲望を自覚するようになるのは、ラブコメ脳的には痛々しい話だ。

ヒロインとしては、小秋が断然魅力的だった。いかにも薄幸の美少女の風体でありながら、その内には人並みに黒い感情も溜め込んでいる。従兄妹の夏澄の影響で、耳年増にもなっていたのだろう、肉体的な触れ合いがないことで、小秋から泳太の心が離れつつあることを、泳太自身より早く察知していた。そして、泳太を離すまいと策謀をめぐらせる小秋は、かつて泳太が恋した純粋無垢な少女ではない

その策謀が裏目に出て、結局泳太と小秋は破局を迎えることになるわけだが。すべてを知った上で、最後の最後泳太が小秋の元に戻れば、これはこれで一つの劇的な大恋愛として収束するのだけれど、そうもならず、記憶すら曖昧なまま、結局佐保さんと普通の家庭を築くという、ごくごく平凡な帰結が実に救えない。結局、泳太が最後に好きでいたのは、初めてセックスをした夏澄だったわけだ。

ままならぬ話である

そもそもは夏澄をけしかけた小秋の因果応報かもしれないけれど、そうなるほど泳太は無意識の間に小秋を追い込んでいたということでもある。結果論としては、現実が重くのしかかる前に、泳太はもっと早く小秋と真剣に向き合わないといけなかったのだろう。しかし、泳太と小秋がプラトニックラブの関係を築いていたのも確かである。それはきっと心地よい関係だったに違いない。ただ、それは生身の彼と彼女の関係ではなく、一つの夢のような関係だ。

そのことに先に気づいたのは、「泳太しかいない」という差し迫った現実を抱える小秋だった(夏澄から生々しい肉欲に爛れた人間関係を聞かされていたことも大いに影響しているだろう)。泳太は現実を直視せず、小秋とのプラトニックな関係を尊いものとして隔離し続けていたが、それは泳太がいつでも現実に戻れるからだ。そして、生身の小秋と向き合い触れ合うことを恐れ、避け続けた。小秋が泳太を「小心者」というのは、そういうことだろう。が、小秋はそういうわけにはいかない。夢はいつか覚める。

そうして、自分の代わりに夏澄をけしかけるわけだが、泳太は夏澄にインプリンティングされたように夢中になり溺れてしまうのだから皮肉である。というか、どう考えても悪手というか他になんかあるやろという気は大いにする

そこは、なんだかんだで肉体の関係を小秋はまだ軽んじていたということなのかもしれないし、あるいは一人悩み続けていた小秋は既に壊れていたのかもしれない。そして泳太は生身の小秋と向き合わず、心地よい夢のような関係として壊れないようにしていた。10代から20代というリアルに移り行く中で、ままならぬ関係が、ままならぬままにままならぬ帰結を迎えた。なんとも救えない話である。バッドエンドですらないところが救えない。

こんな話をしても仕方ないのではあるが、泳太と小秋が互いに向き合って、幸せになる道自体はあったと思う。でもそれは全然違う話になるだろうな。けれど、テーマ的には案外同じような話になるんじゃなかろうか。泳太は最初から、生身の小秋を見ていなかったのだから。でも、それは小秋を好きじゃなかったということにはならない。夢を現実に引きずりおろすのは、それはそれで苦しいことだけれど、少なくとも救えない話ではない。たまにゃこんな話も悪くないけど、個人的には、ハッピーな話が読みたいね、やっぱり。

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